置いてけぼりの男〜『実録白川和子 裸の履歴書』 『黒薔薇昇天』

1月14日・シネマヴェーラ渋谷


『実録白川和子 裸の履歴書』、最後の白川和子らの口上だけ観たくて途中入場したら、ちょうど白川和子と織田俊彦がファッキングの真っ最中。白川和子の艶技よりも、そのシーンの森勝のカメラワークにしびれた。だいたいファックシーンなのにファックしてる男女を映すことはそこそこにカメラが彷徨い始める。それは誰の視点だか詳らかではないが、例えば俗に女がその陶酔の最中に「イク、イク」などと言うように、それはまるで幽体離脱した白川和子の魂の視点であるかのように、ファック中の自らの体を離れ、真っ暗な部屋を彷徨いつつ、台所の水にさらした野菜にまで到るカメラ(視線)の動き方が、安直に言えば呪われてるというか、つまり凄い、たまらない。確かこのシーンは自暴自棄になってた白川和子に、織田俊彦が結婚を申し込んでそのままファックになるところだったと思うが、ようは「台所の水にさらされた野菜」は「結婚」のメタファーであり、野菜にまで到って止まる視線はつまり白川和子の心ここにあらずっぷりをよく表している。ファックの最中にもかかわらず(男と自分の体はそこに置いて)、白川和子の魂はすでに「団地妻」になる喜びに、幸福に、思いを馳せていたのだ。しかし、これはまた白川和子にとっては「結婚=男」ではなく「結婚>男」であることを暗示させるシーンでもあって、結局この男、織田俊彦はファックの最中ばかりでなく、常に白川和子に置いてけぼりを喰らわせられる。つまりのちに白川和子はこの男よりも仕事(日活出演)を選ぶのである。このたった一つのカメラワークに、なにか「女」というものを感じてしまうのは果たして僕だけだろうか。
そしてお目当ての白川和子の口上、「このたび縁持ちまして団地妻として新しい人生を旅立つこととなり、皆様方とはこれでお別れです」云々を観る。ロマンポルノはここから始まった記念碑的作品、白川主演の『団地妻 昼下りの情事』に掛けてることはもちろん言うまでもない。しかしまぁ、テレビで観るのとスクリーンで観るのではなんでこうも印象が違うのかしらん、不思議だけれども。もうこの口上のシーンは、スクリーンに映ってるものから、映らない何かまで、全部がカッコいい。奇跡!
余談だが、以前ロマポ監督番付なる遊びをしていたとき、僕は東の横綱田中登、西の横綱長谷部安春(これは皆から総スカンを喰らったが偏愛的番付なので仕方ない)を配置したが、やばい、やっぱ西の横綱は長谷部じゃなくて曾根中生かも…。こないだ観た『真夜中の妖精』(田中)や『不良少女 野良猫の性春』(曾根)も素晴らしかったし。でも先日やはりヴェーラで観た『レイプ25時 暴姦』(長谷部)などはヴィスコンティの『ベニスに死す』に匹敵するような映画の気もして、まあロマポ横綱争いは熾烈です、僕の中では。

『実録白川和子 裸の履歴書』
http://d.hatena.ne.jp/migime/20090111/p1


続けて神代辰巳『黒薔薇昇天』を観る。ビデオでは何度か観たことあったがスクリーンで観るのは初めて。オープニングとか完璧だね。にしても最初観たときはローラースケートファックに爆笑した記憶があり、もしも映画館で観ていたなら笑い屋と指差されること間違いなかったろうが、今回はそこではそんなに来ず、谷ナオミが堤防からキャーと落っこちるところとかに爆笑した。笑いのツボは経年と共に変わるのかしら。『悶絶どんでん返し』といい、神代映画の谷ナオミは他の出演作と全然違ってていいなぁ。こういう谷ナオミが好き。