南太平洋の秘島に棲息する大巨獣ガッパの生態

なにやら今日(1/27)はフィルムセンターで大巨獣ガッパが掛かっていたらしい。映画ファンのガールに観に行かないかと誘われたが京橋は遠いのでパスした。いまさら僕がガッパについて話すことは別にないのだが、それでも一言、我が国のガッパシーンが過去最大の盛り上がりを見せた2005年の回想を交えて少し…



やっぱガッパ!
ガッパの親子愛強し!
怪獣バンザイ!
ガッパ勝った!
ガッパもう怒らない!


今をさかのぼること4年前、2005年5月に旧ユーロスペースで、みうらじゅんセレクトによる「みうらじゅん的映画祭」なるものが開催された。試みにそのラインナップを列記すると…


・『大巨獣ガッパ』1967/野口晴康
・『帝銀事件 死刑囚』1964熊井啓
・『バージンブルース』1974/藤田敏八
・『八月の濡れた砂』1971/藤田敏八
・『私が棄てた女』1969/浦山桐郎
・『宇宙人東京に現わる』1956/島耕二
・『雁の寺』1962/川島雄三
・『秘録 怪猫伝』1969/田中徳三
・『蛇娘と白髪魔』1968/湯浅憲明
・『四谷怪談 お岩の亡霊』1969/森一生


の10本。そして、このなかでお客さんの投票数が一番多かったものに与えられる「金の蛙賞」、それを見事獲得したのが、そう、大巨獣ガッパだったのである。つまり冒頭の五行は、「金の蛙賞」を獲得したガッパに対するみうらじゅん氏のメッセージである。

実は僕も「みうらじゅん的映画祭」の観客同様、ガッパの親子愛や、またガッパの造形にひどく心を打たれたくちなのだが、映画のストーリー等はすでに他で十分語り尽くされてる感があるので、ここではガッパそのものにスポットライトを当てていきたいと思う。


それにしても「大巨獣ガッパ」とは凄いタイトルである。「大」も「巨」も共に「でかい」という意味である。それを二つ並べてつなげるのだから、これにはまいった。”ガッパは一体どれだけバカでかいのか?!”という話である。ちなみに、1967年に朝日ソノラマから刊行された『怪獣解剖図鑑』なる怪獣研究書の大伴昌司氏の解説によると、ガッパの体長は60メートルである(体重2万トン)。60mと一口に言われても比較対象がなければピンと来ないだろうが、有名どころではウルトラマンが40m、ゴジラが50m、ガメラが60mである。これだけ見るとガッパは大きい方だが、しかしキングギドラの体長は100m(!)、この怪獣に比べればガッパもまだまだ「大巨獣」とは言えないようである。


ガッパとは頭にお皿はないが、その名前と顔つきからして、どうやら河童の怪獣のように思われる。しかし羽根も生えていて空も飛べるので、カラス天狗等も混じった妖怪ベースの怪獣なのかも知れない。ちなみに、映画中ではガッパの生態や能力は謎に包まれたままで、それらについて細かいことは何一つとして語られないが、前述の『怪獣解剖図鑑』によれば、ガッパの飛行速度はマッハ3である。1983年に秋田書店から刊行された『怪獣映画大全科』によれば、東宝ラドンがマッハ1.5、モスラキングギドラがマッハ2、大映のギャオスがマッハ3であるので、それらと比較してみても、日活のガッパが如何に速く、能力が高いかがわかるだろう。


映画を観た人ならば、海から現れたガッパが日本に上陸する際に、母ガッパの方が何かをくわえていることに気がついたと思う。目をこらしてよく見ると、それはタコなのであるが、”なにゆえタコなのか?!”というこの不自然なシーンについても映画中では一切説明されない。なので、ここで少し補足すると、タコはガッパの食料なのである。というか、ガッパはタコしか食べないのだ(ガッパの胃は「タコ胃」と称されている)。ここでようやく人間に捕らえられた子ガッパが、人間に与えられた食物を全く口にしなかったわけも頷けるだろう。そして、さらに『怪獣解剖図鑑』の解説によれば、親ガッパは子ガッパを助けるために日本に来たわけだが、あの母ガッパがくわえていたタコは、なんと腹を空かせてる子ガッパに食べさせようと持ってきた獲物だったのだ!嗚呼、母の子を想う愛情よ!

僕はこの事実を知って、あのガッパたちの怒りを全て察した。日本に上陸した直後の親ガッパたちは、子ガッパを探すために街やビルを踏みつけて破壊しはするものの、ガッパ能力「殺人爆発光線」で人間たちに自らすすんで攻撃を仕掛けることはなかった。また自衛隊の戦車などに次々と発砲攻撃されても、それに対してガッパは反撃することもなかった、最初は。
しかしである、その戦車の砲弾が運悪く母ガッパの口元に当たってしまったのだ。それにより母ガッパは子供への獲物タコを地面へ落とすことになる。落とした瞬間に、画面は母ガッパから父ガッパのドアップにパッとスイッチされるのだが、このときの父ガッパの咆哮と怒りの表情は凄まじかった。

「テメエ、なにタコ落としてんじゃ、クソボケェェェ!!!!」
「そんなこと言ったってアタシのせいじゃないわよ!!
 アイツらよ、アイツらがみんな悪いのよ、ギリギリ、キィー!!!!」

このタコ事件をキッカケに、逆ギレした親ガッパたちは4000度の熱をもつ「殺人爆発光線」を駆使し、次々と人間たちに復讐ともいうべき攻撃をし始めるのである。ほんと食べ物の怨みって恐ろしいよね。

さて、しつこく母ガッパがくわえたタコについてまだ話す。体長60mはあろうかという母ガッパがくわえたタコ、添付した画像を見てもわかるように、このタコこそ大巨蛸といえるほどめちゃくちゃでかい計算だ。こんなでかいタコがいることにもびっくりだが、さらに驚くのは、このタコが明らかに茹でダコであること。『怪獣解剖図鑑』にもこのことは書いていなかったが、どうやらガッパはタコを茹でて食すらしい。それにしても、シンプルながらもいちおう一手間かけるというか調理をするとはね、世の中にはまったく珍しい怪獣もいたものである。


タランティーノがB級日本映画を発掘する前に、日本国民全員が『ガッパ』ぐらいは当然、知ってないとね」みうらじゅん


そして2005年のガッパシーンにおいて、「金の蛙賞」受賞よりもはるかに凄かったのが、上の画像を見ればもうおわかりだろう、
あの花輪がガッパを描いた!!!!
ことである。これはもう大事件だ。花輪といえばもちろん花輪和一のことで、嗚呼、ガッパの”目つき”がもう完全に花輪さんしています。素晴らしい!!!!
花輪和一画「大巨獣ガッパ」は『月刊アフタヌーン』2005年11月号のピンナップポスターより。
ちなみに冒頭のガッパ画は、中西立太による「ガッパ上陸作戦」(『怪獣解剖図鑑』1967より)。ガッパ大暴れ。タコを落としたばっかりに…