偏愛的・日活ピンキーバイオレンスBEST10

以前に1970年代の「東映ピンキーバイオレンス」についてやったが、今回はその同時代に狂い咲いたもう一方の雄、「日活ピンキーバイオレンス」の偏愛的ベストをやりたいと思う。大体「東映PV」という定義からして曖昧なものなのだ。言わずもがな勝手に作った「日活PV」などという胡散臭いジャンルのそれも輪をかけて不明瞭。70年代というと日活は「ロマンポルノ」時代に入っており、「ピンキー=おっぱい」の部分は申し分ないし、ここではその中で特に「乾いていて、硬い、暴力感覚」が横溢しているものを選べばいいということになる。もちろん暴力という面では、ロマンポルノにおいて最も大きな勢力だった「SM」というジャンルもあるが、暴力の質、また目的において「PV」とはその性格を異にすること言うまでもない。


01.『野良猫ロック セックスハンター』1970/長谷部安春/大和屋竺・藤井鷹史

野良猫ロック」シリーズの最高傑作であることを疑わない。脚本は大和屋竺で、例えば渡辺護監督が『おんな地獄唄 尺八弁天』のホンを読んだとき、これは自分への大和屋からのラブレター、また続けて大和屋は監督に合わせて脚本を書いているのだろう、と言っていたのが非常に興味深いが、もしもそれを信じるならば『セックスハンター』の脚本はまさに長谷部のために書かれたラブレターであろう。そう思わせるほど、この映画は長谷部安春(藤井鷹史)と大和屋竺の硬質感が見事に合致し、それが映画を見事なまでに累乗的に良くさせている。
彼らは決まってぶよぶよしたものが嫌いである。それは女であり、その肉体である。もっと言えば彼らはその生温さ、湿り気を憎む(大和屋竺の他作品を想起せよ。特に『大人のオモチャ ダッチワイフ・レポート』は女性憎悪の極致)。「やっぱり女は汚えや」と藤竜也に言わしめる彼らの女性憎悪(裏返された女性憧憬)、故にあの過剰なまでに美しい硬質的な暴力感覚。一見、梶芽衣子が絶対的なヒロインに見えるが、実際のところこの映画の隠れた主役は「男」たちなのだ。特にここでの混血児(大和屋に言わせるならば「革命児」)安岡力也のハードボイルドさは最高の仕事として異論をはさむ余地もない。
それでも梶芽衣子の魅力的なこと、確かにそれは認めるものの、例えば『おんな地獄唄 尺八弁天』の香取環然り、長谷部ロマポのヒロインたち然り、俳優序列では主演の彼女らも実のところは商業的なアリバイに過ぎぬことが多い。それは長谷部作品に限ったことではなく、これから後述するラインナップを見ても一目瞭然だが、東映PV」ではちゃんと建前も本音も「女」の物語になっているのに対し、(あくまで僕の選ぶ)「日活PV」では「女」は建前であって、本音は「男」の物語になる傾向が強いのである。例えば70年代の「東映PV」と「日活ロマンポルノ」の女優を比べたとき(その後の彼女らの女優活動等を考えてみても)、女優王国と謳われた日活が質量ともに勝っていたことは間違いない。ただ、これが「東映PV」と「日活PV」の比較となると話は変わってくる。この場合は明らかに東映の方が女優の層が厚いのだ。東映PVには絶対的なシンボル池玲子杉本美樹がいた、衣麻遼子をはじめ脇も安定していた。が、こと「PV」というジャンルでは彼女らに比肩しうる女優が日活には圧倒的に少なかったのである。語弊を恐れずに極論すれば、濡れた官能美なるものはオハコであっても、乾いた暴力感覚を表現でき、またそれが容姿ともにピッタリ嵌るだけの女優がいなかったのである。まあ、それが「日活PV」が「男」のドラマ化した原因であるか結果であるかは僕にはわからないけれど。


02.『レイプ25時 暴姦』1977/長谷部安春/白坂依志夫桂千穂

”ベスト10には同じ監督の作品を二つ以上入れない”という自分ルールを破ってまでも絶対ランクインさせねばならぬ長谷部ロマポの大偏愛作。実質『野良猫ロック セックスハンター』と並んで順不同の一位。大体この偏愛的ベストは、下手すると『暴行切り裂きジャック』『すけばん刑事 ダーティ・マリー』『犯す!』など、長谷部ロマポばかりになる危険性(?)を孕んでいるのです。
それはともかく、いままでこんなに伊達男な石山雄大を見たことがあるか?!真っ赤な上着をクールに着こなし、どことなくキザで、粋で、大人で、都会的で、もちろん暴力をふるうが、例えば蟹江敬三とはまた違った手際のよさで次々と女を犯しまくる。蟹江敬三とは『犯す!』のレイプ魔であり、このときの蟹江敬三は、暴力感、荒々しさでは遙かに石山雄大の上を行っていたが、その風貌はどことなく田舎者のようであか抜けず、動物にしか心を許せない幼児的な一面も持っていた。同じレイプ魔でもこの両者はタイプが違うというわけだが、両映画では女の扱い方も全く違っていた。女の扱い方とは、女のドラマ性を重視しているかどうかということで、『犯す!』の方は物語が進むにつれて、そのスポットライトは男である蟹江敬三に取って代わり、蟹江にレイプされた八城夏子のドラマ性に重点をおいてあてられてくる。一方、『レイプ25時 暴姦』では終始男の側にあてられる。そう、これは究極の男のドラマ、かつ男色のドラマであって、そこに恋情なるぶよぶよしたものはなく、そこにあるのは即物的な肉の欲望のみ、物語は常に犯るか犯られるかなのである。男嫌いの石山雄大のオカマを掘るべく迫るアナーキーで超暴力的なホモ三人組(特に高橋メイさん!)は出色。長谷部安春の真骨頂、その硬質的な、暴力描写の濃度には脳がズキズキしてくるのを覚えるようだ。ここに流れる血は「PV」のそれとは違う、それはアナルチックな薔薇色の血、これは「ロージー・バイオレンス」と言うべきものなのだ。そして最後に付け加えると、羽毛が舞い散る中での山科ゆりのレイプシーンの美しさは奇跡に近い。


03.『スケバンマフィア 肉刑』1980/池田敏春/熊谷禄朗

「肉刑」と書いて「リンチ」と読ませる池田敏春の監督デビュー作。巨大組織スケバンマフィアに殺された友達の復讐のため女子高生が一人立ち向かう。本音建前ともにきちんと「女」の子の物語になっている「日活PV」、不良少女物の秀作。『天使のはらわた 赤い淫画』でも度肝を抜かれたが、同様の、画面に横溢するヒリヒリするような暴力感覚、リンチ、レイプシーンなども魅せる。主人公の倉吉朝子とマフィアボス渡辺とく子とのラストは必見!とにかく男映画がずらりと並んだ中で倉吉朝子はひとり気を吐いたというか物凄く素晴らしい。敵に屈し、その失意の後の倉吉朝子の復活も然り、女子高生二人と一人の青年によるセックスから始まった関係と微妙な心情の変化も然り、なんだかいちいち偏愛ポイント高くて胸キュン映画としても観られる。『キル・ビル』のジュリー・ドレフュスは、本作の鹿沼えりからのいただきではないかと思ってます。


04.『実録おんな鑑別所 性地獄』1975/小原宏裕/桃井章・小原宏裕

お約束の女囚物で、また小原宏裕監督の「実録おんな鑑別所」シリーズで最も完成度が高いのが本作かと、いわば「日活PV」の正統。というのも何より主演の梢ひとみの存在がデカい。東映の池や杉本に比肩しうるPV女優が日活には少ないと前述したが、容姿・雰囲気・佇まいにおいて、ただ独り彼女らと対等たり得たのは、日活では梢ひとみだけだと激しく思っている。女囚服を腰巻きしおっぱい出して仁王立ちしている梢ひとみを想像してごらん!それだけでもなんと様になることか。梢ひとみ主演の、長谷部安春『すけばん刑事 ダーティ・マリー』などはPVの文句なしの正統だし、澤田幸弘のPV『暴行!』も悪くなかった、同シリーズ『新・実録おんな鑑別所 恋獄』のタイトルバックなどは最高だ、また未知の主演作では『肉体犯罪海岸 ピラニアの群れ』『番格 女子高校生のSEXと暴力の実態』なども面白そう、それなのにいまいち日活PV女優として神格化されないのは、世間的に有名なPV主演作が梢ひとみにはなかったからであろうか?そのPVに対するポテンシャルは池や杉本以上であったにもかかわらず。梢ひとみは主題歌「煉獄ブルース」だって歌えるのにな。
本作ではPVがよく似合うひろみ摩耶が凄まじい最後を見せ、芹明香高橋明トルコ嬢とヒモのコンビも最高。


05.『濡れた荒野を走れ』1973/澤田幸弘/長谷川和彦

山科ゆり演じる女子高生と逃避行だなんて、まさに男の夢が爆発したかのような「男」視点の羨ましいドラマ。山科ゆりが光る!あと、人の嫁には手を出す、容疑者には性的取り調べをする、と、やりたい放題のメイさんが、ドジすぎて、微笑ましい。


06.『やくざ観音・情女仁義』1973/神代辰巳/田中陽造

かつての日活ニューアクション俳優・岡崎二朗が主演なのが感慨深い。田中陽造の世界に出会ってしまった血飛沫アクション?
『やくざ観音 情女仁義』を読むための「桜姫東文章」を参照。
http://d.hatena.ne.jp/migime/20090201


07.『愛欲の罠』1973/大和屋竺/田中陽造

厳密には「天象儀館」製作のいわゆる他社ロマポ。一角座でハマって観まくりました。『ピストルオペラ』で延髄に銃弾を撃ち込むジュリーと言ったらいいか、とにかくそんな空気銃の殺し屋櫻木徹郎荒戸源次郎の出逢いがサイコーなのです。


08.『美女のはらわた』1986/ガイラ/ガイラ

ガイラ版『みな殺しの霊歌』。これまた「六月劇場」製作の他社ロマポだが、もはやモンスター系のブラッディ・バイオレンス。主演の小沢めぐみが血塗れの怪物に変身して男どもを…。何故かエイリアンみたいなチンコも生えているのだが、シメはそのオマンコで吉沢健を…。
日本映画嚆矢シリーズ(?)として、殺人鬼物の『処女のはらわた』や、和製ジャッロとでも呼びたい猟奇スリラー『ズームイン 暴行団地』と迷ったが、いちおうピンキーというかブラッディな女の子(?)が活躍するので『美女のはらわた』を。


09.『色情旅行 香港慕情』1973/小沼勝/中島丈博

「香港へ行ってどうしようってんだ!」という井上博一の叫びに全て集約されている。三木のり平の『お熱い休暇』がバンコク旅行の片手間に撮られたものならば、こっちは単なる翌年結婚する小沼勝と片桐夕子の婚前旅行だろうが!と思わずツッコミを入れたくなる。片桐夕子は香港ではワンカットしか出演ないしなぁ、あとは日本のセット撮影だろうしなぁ。などと言ってみるものの、香港の風景はきちんと撮られていて、映画としても申し分ない。井上博一とやかた和彦の関係に同性愛的なものを感じさせる「ロージー・バイオレンス」。小川節子も結婚したいほど可愛い。


10.『黒い牝豹M』1974/蔵原惟二/宮下教雄・中島絋一

東映PVの女王・池玲子の唯一の日活出演作(珍)なのでオマケでランクイン。ロマンポルノ(成人映画)と思われがちだが、実際は一般映画のようで、池のおっぱいは出るけど、濡れ場がないのはそのためと納得。女殺し屋・池玲子が幻の殺人拳を駆使する空手アクション。まあ、拳にほとばしりはあまり感じられませんが、池VS高橋明の空手とか、なかなか観られないレア対決です。ちなみにこの映画の製作前の仮題は『ザ・くノ一』、池が演じた役は空手に加え、超能力を使う秘密諜報員という設定だったらしい。


次点としては、渡辺護『制服処女のいたみ』の美保純の躊躇なき暴力、カッコ良さも捨てがたく、また、こちらは「男」臭そうな気がするがジョージ・ハリソン好きとしては『セックス・ハンター 濡れた標的』を観れば、また順位が変わりそう。