長谷部安春『犯す!』を観て

今年シネマヴェーラで『レイプ25時 暴姦』を、昨日ビデオで『犯す!』を見直して、昔に書いた「偏愛的日活PVベスト10」にダメ出ししたくなった。まあいちおう「傾向」と念を押しているので間違いというわけではないんだが、改めて『犯す!』は「女」の映画だと主張し直すんだし、『レイプ25時 暴姦』に関しては全然映画を読めていなかったことを真摯に受け止めたい。『レイプ25時 暴姦』は恋愛映画であったのだ。これについては後日別の日記で書こうと思うが。
以下メモ書きのように、昨日久しぶりに観た『犯す!』について思ったことをだらだらと書き綴る。



◎『犯す!』を何故急に観たくなったかというと、最近長谷部安春のロマンポルノにおける音楽の使い方というものが気になっており、その確認のため。ソラリゼーションが用いられたタイトルバックで流れる音楽をずっと「ナイフを研ぐ音」のみだと誤解していたが、ジャズも流れていた。レイプシーンもほとんどジャズ。
◎長谷部ロマポにアメリカ映画の香りがするのは何故なのか。ジャズが流れるからというばかりではあるまいが、『犯す!』では夜のスーパーマーケット、『レイプ25時』では深夜のガソリンスタンドという舞台もそれを感じさせる原因だろうか。
蟹江敬三と八城夏子のファーストコンタクト、エレベーターでのレイプシーン、八城の腹を躊躇なくぼっこぼこ殴り、倒れた八城を踏みつけながらペニスを出し、八城の目の前にナイフを突き刺すのが凄絶の一言。当然突き刺さったナイフは「陰茎」、クルミは「陰嚢・睾丸」の暗喩である。
◎処女だった八城は蟹江の強姦によって破瓜される。例えば、やはり長谷部の『襲う!』で小川亜佐美がファーストレイプされたときにはバックにベートーヴェンピアノソナタ「悲愴」が流れ、小川の悲愴な心情を音楽によって表しているが、『犯す!』の八城も強姦破瓜にひどいショックを受けたと思しく、音楽は沈痛なものだし(穂口雄右)、仕事にも全然集中できない様子。そこをめざとい岡本麗が”八城さんもすみにおけないわね”などと言うので、”そんなんじゃありません!”とか言ってトイレの個室に逃げるわけだが、そこへ同僚(原田千枝子)が”お客さん(生理)が来ちゃった。あれ持ってない?”などと言って入ってくることで八城にも鑑賞者にも「妊娠」を意識させていく。腹立たしさに投げつけたりするものの(それで鏡が割れる)、何故か捨てられない蟹江が残していった二個のクルミ(睾丸)がたびたび画面に現れる。
◎課長(三川裕之)が初めての人に似てるだとか、初めての人は忘れられないものだとか、余計なことしか言わない同僚の原田。また三川も同様のことを八城に言うのだがしつこいと思う。これは八城に暗示をかける効果があるのかも知れないが、個人的にはこの手の台詞は一切必要ないと思う。暗示などは関係なく何故か蟹江に惹かれて行くのがいいのじゃないか。
◎しかし八城も強姦後すぐに蟹江に惹かれたわけではない。蟹江にやられてすぐに課長に誘われ、それを拒否するものの結局言いくるめられてやられてしまう。図書館の警備員である高橋明には”俺の情事を覗き見しやがって”的な因縁を付けられ強姦されてしまう。レイプされまくりの八城もこの辺まではペニスに拒否反応を示しているが、それが何故か急に女というか淫婦性に目覚める、そのきっかけは下半身から流れ出た経血、妊娠していないことを知ったからだ。トイレの経血を流した後、八城は割れた鏡に向かい、いままでつけたこともないような真っ赤なルージュを唇にひくのである(『オーガズム真理子』の一変種?)。
◎それからの八城は、例えば若者二人(清水国雄・影山英俊)にナンパされれば部屋までのこのこついて行き、3Pどころかアナルセックスまで体験し、道で声をかけられた土木作業員の中平哲仟には自らセックスを誘い、果てて寝てしまった中平を観て微笑んだりさえする。
◎清水・影山のシークエンスが最高だ。部屋に帰るなり、二人はジャンケンに勝った方が一枚ずつ脱いでいくという逆野球拳を始めだす。つまり先に全裸になった方が八城とセックスを先にできる権を得られるシステム。それをわかったように何も言わずに待つ八城。そして”あと何秒?あと何秒?記録出た?”と挿入時間の競争をしはじめる清水と影山。その応援や実況も可笑しいことこの上ない。大体ファックシーンというものは話が中断される感覚に陥り退屈なのだが、ここには神代辰巳の会話する濡れ場を彷彿とさせる面白さがある。神代が濡れ場に「会話」を入れて物語の流れのテンションを維持するのならば、長谷部の場合それにあたるのが「バイオレンス・レイプ」なのだろうとも思う。
◎レイプ直後はトラウマからエレベーターにも乗れず、階段を駆け上がって部屋に入るような八城だったが、淫婦性に目覚め、蟹江が忘れられないようになってからは、蟹江に犯されたときに着ていた服を着、初めて遭ったスーパーマーケットで蟹江の姿を探し、淡い期待を抱きつつエレベーターに乗ったりする。しかしエレベーターには誰も乗って来ない。
◎冒頭のレイプで八城と蟹江は接点を持ち、それ以後はラストまで二人になんの接点を持たせず、二人のエピソード、つまり八城の男性遍歴と蟹江のレイプ遍歴を併行させて語っていく構造。
◎蟹江は強姦でしか燃えることのできない性癖の持ち主である。それはレイプしようとしたはずなのに、自ら求め始めてきた谷ナオミを腹立たしげにぶん殴るシーン(谷がギャグ)からもわかる。そして強姦した相手のことをいつまでもいちいち覚えていない主義。八城を犯したあと、谷を犯そうとするも求めてきたのでぶん殴り、犬の散歩をしていた動物好きの少女(山科ゆり)には何もせずただ優しく接し、楚々とした和服美人の二條朱実を公園遊具の中で犯し、ラスト再び八城と出逢う。
◎女にはあれほど暴力的であるにもかかわらず、自分の飼っているリスや動物にはやさしい。リスに噛まれてもニコリとして許す。
◎ラストに偶然の再邂逅を果たす八城と蟹江。”これあなたのでしょ”と二個のクルミを蟹江に差し出し、”探したわ”とか”もうあなたから離れない!”と言うが、それを疎ましく思った蟹江は殺すつもりでトラックで林の中へ。揉み合いとなる二人、ナイフは蟹江の腹に。最後の力を振り絞り八城に向かってナイフを投げつける蟹江だったが、無情にもナイフは木に刺さるだけ。『マル秘女郎市場』の片桐夕子ならば、”あたしの体で生き返らせてあげる”と益富信孝を屍姦するところであるが、もはや虫の息の蟹江の上に乗って嬉々としてファック(犯す!)をする八城には男の生死などは問題でなく「精子」のみが重要のように見える(全編に「妊娠」に関するキーワードが鏤められていることから)。人間が死んだときに一番最後まで生きているのは精虫であり、よって理論上、屍姦妊娠だってありうるのだ。また、経血、真っ赤なルージュと、男を襲い精を奪う夢魔スクブスを思い描けば、これを吸血鬼映画の一種としても観られるのではないか。『襲う!!』にも顕著であるが「犯し−犯される」という関係はいつでも置換が可能なのだ、八城の腰使いでトドメをさされた蟹江の死は、直前に蟹江が投げたナイフが木からぼとりと落ちたことでわかる。エンドマーク。
◎前ロマポ時代(日活ニューアクション時代)は、語弊を恐れずに言えば、長谷部安春は元より「女」を描く必要はなかったが(梶芽衣子が絶対的な主演作である日活PV『野良猫ロック セックス・ハンター』は言わずもがな、東映PVの『女囚さそり 701号怨み節』でさえ田村正和の物語になっている)、女性上位のロマポ時代になってからのフィルモグラフィを眺めると、その葛藤と言おうか、その歩み寄りの姿勢が興味深い。
『戦国ロック 疾風の女たち』『すけばん刑事 ダーティ・マリー』『犯す!』とロマポ1〜3作目は、田中真理、梢ひとみ、八城夏子の、ちゃんと「女」を描いたドラマになっていたのに気づかされる。
『犯す!』のヒットにより、ロマポでもこれからは何でもありの監督の地位に昇格(?)したのか、もしくは桂千穂と運命的な邂逅をはたしてしまったからか、4〜5作目の『暴行切り裂きジャック』『レイプ25時 暴姦』では、林ゆたかが女どもを次から次へと殺しまくったり(桂千穂に言わせれば裏返された女性賛美)、高橋明などのホモたちが命がけの追いかけっこをする、もうトンデモないとしか言いようのない「男」臭い映画を連発し、バイオレンスポルノの大家というポジションを決定づけてしまった。
6作目の『マル秘ハネムーン 暴行列車』では一転してニューシネマをやり、「男」2人と「女」1人の共同体的関係を描いた。
7作目の『襲う!!』では小川亜佐美の成長(性長)記をやり、また「女」を描いた。
8作目の『エロチックな関係』は未見なのでなんとも言えず。
そして長谷部ロマポの最後となる9作目『暴る!』においては、もはや「男」も「女」も描いてないような気さえするのだ。



八城夏子 ヤシロナツコ (八城夏子)
蟹江敬三 カニエケイゾウ (男)
三川裕之 ミカワヒロユキ (高井)
岡本麗 オカモトレイ (ユキ)
高橋明 タカハシアキラ (島)
北上忠行 キタガミタダユキ (クリーニングの男)
谷ナオミ タニナオミ (温室の女)
二条朱実 ニジョウアケミ (和服の女)
山科ゆり ヤマシナユリ (ジーパンの娘)
清水国雄 シミズクニオ (若者)
影山英俊 カゲヤマヒデトシ (若者)
中平哲仟 ナカヒラテッセン (労務者)
森みどり モリミドリ (夏子の同僚)
原田千枝子 ハラダチエコ (夏子の同僚)
田畑善彦 (管理人)


『犯す!』のキャストをgoo映画からコピペしたものだが、役名がかなりいいかげんなので勝手に訂正しておく。
八城は図書館勤務。蟹江はトラック運転手。三川は八城の上司。岡本は八城の同僚。高橋は図書館の警備員。北上は「クリーニングの男」(なにそれ?)ではなく蟹江の相棒でやはりトラック運転手だろう。谷から中平まではその通り。森みどりは「夏子の同僚」ではなく、トラックの中で北上相手に商売するパンスケ。原田はその通り。田畑は「管理人」ではなく、二條が蟹江にレイプされたのを目撃し、蟹江を捕まえるため追いかける役なので警官なのだろうか。