宇能鴻一郎の濡れて馬なみ〜『生贄の女たち』

2月11日、円山町ラブホ街のQビルに行く。3階でビクトル・エリセの『エル・スール』を観るか、4階で山本晋也監督の『生贄の女たち』を観るかで相当迷ったが(ウソ。全然迷ってない)、後者をチョイス。デカマラ外人以外、キャスト・スタッフ共に日活ロマポ・ピンク映画系なので、これはカントクによる外注買取ロマポなんだと思い込んで鑑賞。とりあえず”カントクはサイコー!”とだけ言っておく。カントクをトゥナイト2のレポーターだと思ってる奴は全員死刑!あ、これ『下落合焼きとりムービー』の予告編のネタね。



まずはネタバレありーの『生贄の女たち』の<あらすじ>


アメリカ合衆国国防省のお役人であるハリー・リームスは外交特権でセスナ機に乗ってお忍びの来日をはたす。というのも、ハリーは交通事故でペニーが折れてしまい、妻(飛鳥裕子)の母(松井康子)に「皮付きのピーナッツ」と揶揄されてしまうほど小さくなってしまったため、母の勧めでペニーの移植手術を受けに来たのだった。早速医師(桑山正一&草薙良一)のところに行くが、動物実験では成功しているが人間に施すのは初めてと言うペニー移植手術をハリーは拒絶し帰ってしまうが、”愛”だけでは満足できない飛鳥はレストランで偶然邂逅した自分の処女を破った先輩(東てる美)とレズってしまう。その現場を目撃し、自分のときとは違う妻の激しい感じっぷりを見たことで、ビッグペニーの移植手術を決意をする。手術は無事に成功、生まれ変わったウマナミペニーとの初夜を楽しみにする妻であったが、他の女とは出来るのに何故か飛鳥とだけはできないハリー。ペニスに影響されてハリーの人が変わったようだと医師に相談するものの全く要領を得ないため、飛鳥はビッグペニーの元の持ち主である中村剛一に会えば何か解決の糸口がつかめるのではないかと彼のアパートに行く。しかしそこには中村の姿はなく、女がただ一人いただけ。しかし実はその女こそ中村剛一であり、彼は女房コンプレックスの固まりで、ペニーを提供する代わりにヴァギーを穿ってもらったニューハーフだったのだ。それを飛鳥から聞いたハリーは自分の股間にオカマの一物がついてることに何故か逆ギレして、元の持ち主の剛一のところへ殴り込みに行くが、逆にセックスを迫られやってしまう。”自分のモノを自分の中に入れるなんて世界で初めてじゃないかしら。倒錯の世界ぃ〜”と剛一が悦に入ってるところに、剛一の妻(橘雪子)が包丁を持って闖入。剛一のデカチンのためにガバマンにされ、他のチンコじゃ満足できなくなった怨みのため、剛一のヴァギーをズタズタにしてやると息巻いて。しかしそこに剛一のペニーを持つハリーがいたものだから標的は変わり、雪子はハリーを追いかけ回し、包丁をくわえながら上になって犯す。…結局、”嫉妬こそは愛の本質、はては猥褻の原点”だという桑山医師はジェラシーセックス療法を提唱し、助手草薙を当て馬として飛鳥に差し向け、それを目撃して見事興奮したハリーはようやく飛鳥との初夜を迎えることに成功するのだった。こうしてハリー&飛鳥はアメリカへと帰って行ったが、そのあと空港まで見送りにきていた桑山医師は助手草薙のつっこみによって真相を白状する。つまりハリーに移植したペニーは中村剛一のそれではなく、死んだ競走馬テンポイントのナニなのだと。この一年後、ハリーは二度目の奥さんとして牝馬をもらう。



だらだらと『生贄の女たち』についての極私的<memo>


◎『生贄の女たち』1978の企画には、黒澤満(元日活撮影所所長)、伊地智啓(元日活プロデューサー)と並んで向井寛の名前も見える。向井寛といえば、本作と同様の外科手術による人体改造映画、クリトリスを喉チンコに移植する『東京ディープスロート夫人』1975を監督したことがすぐさま思い出され、『生贄の女たち』の企画に絡んでくるとは、なにやら向井寛の業さえ感じてしまうのは僕だけか。


◎原案には田中陽造の名前が。田中陽造といえば、鈴木清順を筆頭とした「具流八郎」というキーワードから、その同胞だった大和屋竺との類似性を想起してしまう。例えば「幽霊」であるならば鈴木清順の『恐怖劇場アンバランス 木乃伊の恋』(陽造)と『穴の牙』(大和屋)であるとか、また「ピグマリオニズム」ならば『愛欲の罠』(陽造)と『大人のオモチャ ダッチワイフ・レポート』(大和屋)、「刺青」ならば『やくざ観音 情女仁義』(陽造)と『おんな地獄唄 尺八弁天』(大和屋)といったぐあいに。『生贄の女たち』(陽造)では馬のペニスを人間に移植したが、やはり『発禁 肉蒲団』(大和屋)も”メダカキノコ”とペニスの小ささを揶揄された男が犬のペニスを移植する話だった。ここでこの二作品は「獣姦的人工的奇形ペニス」で繋がる。別段シンクロニシティというわけではないのだが、このように発想の類似性というのは、例えば、荒井晴彦が『不連続殺人事件』で、大和屋竺曽根中生田中陽造(三人共に「具流八郎」として共同で脚本を書いていたメンバー)と一緒に旅館に入って映画の方向性を話し合っているとき、曽根の「『ハムレット』どうだ」という一言に、どうして坂口安吾に『ハムレット』が出て来るのかと衝撃を受けた話を思い出してもいいのではないか。荒井が知っていたのはシェークスピアだけだったが、三人は暗黙のうちに久生十蘭の『ハムレット』だと了解していたという。ようは「同じ釜の飯を食った間柄」(大和屋と陽造にいたっては大学時代から同じ映研に所属して映画を制作し、共に天象儀館映画社の社員でもある)、つうと言えばかあということなのだろうが、ちなみに荒井はこのときのことを「あれはショックだった。全然わからないこと喋ってるけど訊けない。どうしてハムレットが新潟にいるんだって」と回想している。


◎スタッフ・キャスト共にほとんどが日活ロマポ・ピンク映画系なので、これは山本晋也カントクによる外注ロマポなんだと思いながら観る。
・脚本の佐治乾は東映映画でもその仕事ぶりをよく見るが、日活ロマポでも当然傑作多数。『赤線本牧チャブヤの女』(芹明香)観てみたい。でも上映フィルムなさそう。
・助監督の高橋芳郎(「芳朗」の表記も)も日活ロマポによく関わり、フィルモグラフィを見てもきれいに「助監督」の文字が並ぶ。1973年、日活は契約助監督の社員化を推し進めたが、高橋芳郎は日活の正社員にはならず、フリーの職業的助監督であることを選んだ一人だから、その文字が並ぶのは当然なのだが、監督作では映画データベースには載らない『おんな井上麻衣2 悪魔のように』というようなAVの仕事もしている。
・『生贄の女たち』タイトルバックの疾走感のあるジャズがまことにカッコよかったので、音楽の芥川隆の名前は要チェック。イメフォで絶対観ようと思ってた『地獄のローパー』と『狙われた学園 制服を襲う』も芥川が音楽なのでこれまた秘かな愉しみ。


◎タイトルバックのジャズに乗せてスクリーンを走るのは黒いポンティアック・ファイヤーバード。この型(角目)はたぶん『生贄の女たち』1978年と同時期に発売されたばかりのもので、当時のタイムリーな風俗というか流行を敏感に取り入れてることがわかる。というか、例えばPとかのただの趣味だったりして。


◎開巻してすぐのセスナが着陸しようとするアバンタイトルで、飛鳥裕子が「わたしの主人は政府のお役人なんです」「今日は外交特権で横田基地乗り換えのお忍び来日なんです」「わたしたち秘密で日本にやってきたんです」とやりはじめたのは完全に宇能鴻一郎のパロディ。事ある事に終始「わたし〜なんです」と飛鳥がモノローグをかますものだから可笑しくて仕方ない。改題は宇能鴻一郎の濡れてウマナミ』でどうだろうか。
ちなみに「とってもウマナミ」といえば、”ウマナミなのね〜♪”という歌い出しが有名なマキバオー(*1)のED曲のタイトル。『生贄の女たち』リメイク時にはこれを主題歌に!
(*1)本名のうんこたれ蔵はチュウ兵衛から付けられたが、出会った直後の頃は「キンタマくさ男」であった。(ウィキペディアみどりのマキバオー」解説より)


◎団巌と榎木兵衛の宝石密輸団エージェントの二人が可笑しい。岡尚美の夫は宝石密輸団の運び屋で、自分のペニスに宝石を埋め込んで日本に持ち込んだのだが、交通事故に遭って死んでしまう。そうと知った団&榎木は、岡尚美と堀礼文がファックしている霊安室に入ってきて、死体のペニスを切り取ろうと棺桶を開けるがそこにペニスはなかった。ペニスはハリーに移植されたと知り、今度はハリーのペニスを斬り落とそうとする。が、それも宝石が埋められたペニスでないことがわかり、団&榎木は病院の冷凍室で難無く目当てのペニスを手に入れるのだが(それまでのドタバタは一体なんなのか…)、すぐに警察に逮捕されてしまう、という本筋とは全く関係ないエピソードが出色。人体に埋められた宝石というと中島貞夫の『戦後秘話 宝石略奪』の太ももをすぐさま想起するが、『生贄の女たち』の場合はペニスだからさらに凄い。冷凍ペニスをポキっと折って宝石をほじくり出すところも笑える。


山本晋也赤塚不二夫のギャグポルノ 気分を出してもう一度』1979には、赤塚不二夫が中出しした自分のザーメンをストローでヴァギーから吸い出すシーンがあり、それをヴァギー内部からの視点で撮っていて、このユニークなショットは山城新伍の『女猫』より四年早いと思っていたら、『生贄の女たち』の方がもっと早かった。飛鳥裕子のヴァギー内部からの視点ショットで、クンニリングスする草薙良一の舌使いをとらえている。


◎山本カントク的音楽の使い方。
・街中をファイヤーバードが走るタイトルバックには疾走感のあるジャズ
・ハリーがペニス移植手術を行うとき、手術台の電気が点くと同時にベートーヴェン「運命」
・飛鳥と東のレズシーンはポロポロと爪弾かれるアコースティックギターの調べ
・飛鳥がウマナミペニスで初めて交わろうというとき童謡「さくら」(性交失敗)
・女房コンプレックスを克服したハリーと飛鳥の性交シーンには「故郷」(性交成功)
・オカマのペニスだと知ったハリーが元の持ち主の所へ乗り込むシーンはファンク
・ハリーの手術が成功し、病院内をハリーが看護婦の宮崎あすかを脱がしながら追い掛けまわすシーンや、橘雪子がハリーのウマナミのペニスを切りとろうと(犯そうと)追い掛けるシーンは、コマ落としされ、スティーブン・フォスターの「草競馬」がコミカルに流れる。


◎キャストは(ハリー・リームスは除くとして)ロマポやピンクで活躍してる人ばかり。
ハリー・リームス…喉の奥にクリトリスを持つ女の話である『ディープ・スロート』(監督ジェラルド・ダミアノ)で一躍有名になったアメリカのポルノ男優。嗚呼、向井寛の東京ディープスロート夫人!
飛鳥裕…ハリーの妻。「奥村裕子」名義で東映映画にチョイ役で出演していたが、「飛鳥裕子」と改名して『夢野久作の少女地獄』(監督小沼勝)でロマポ、しかも主演デビュー。このときの飛鳥裕子は神々しかった!
東てる美…飛鳥の先輩でテクニシャンのレズビアン。飛鳥の処女を破った女。
岡尚美…宝石の運び屋である中村社長の妻。交通事故で夫を亡くすも、霊安室の棺桶の前で不倫相手(堀礼文)とファック。『生贄の女たち』では誰か別の女が声を吹き替えている。東映『女番長ゲリラ』(監督鈴木則文)のオナラ尼で衝撃的デビューを果たしたあと、日活、ピンクと渡り歩きながら、「丘ナオミ」「丘なおみ」「丘奈保美」「岡尚美」と名前をころころ変える人。
橘雪子…オカマの中村剛一の妻。メガネパーマでわざとブスい感じにし、本作において最高のコメディリリーフ!包丁ふりかざして闖入してきたかと思えば、そのペニスは自分の物だと主張して、ハリーのペニスを切り取ろうとする。そして包丁くわえながらハリーを犯す。これは『愛のコリーダ』(監督大島渚)をパロってるような。橘といえば、「未亡人下宿」シリーズは言わずもがなカントク映画の常連。『新実録おんな鑑別所 恋獄』などでは「南黎」名義でロマポに出てることも。
松井康子飛鳥裕子の母。ハリーのチンコを娘の目を盗んでペロッと舐めるところが可笑しい。「ピンクの山本富士子」と昔は呼ばれていた。
桑山正一…ハリーに馬のペニスを移植したとんでもない医師。”アメリカ人怖いね、サイパン島の玉砕思い出したよ”とか、トボケだかマジメだかよくわからないのが最高の持ち味(『ためいき』(監督曽根中生)とか思い出される)。そうかと思えば『密猟妻 奥のうずき』(監督菅野隆)のようなしんみりした演技も。
草薙良一…桑山医師の助手。桑山医師のめちゃくちゃぶりをいつも心配しているような男。他社制作の買取ロマポだが『下半身美人 狂いそう』(監督久我剛)では「草間二郎」名義。ピンク映画にはこの名義で出ることが多いよう。
礼文…岡尚美の不倫相手。『新宿乱れ街 いくまで待って』(監督曽根中生)では映画監督のたまご役だった男と言えばわかるか。
団巌…宝石密輸団のエージェント。東映の「不良番長」シリーズも印象深いが、日活の『絶頂の女』(監督遠藤三郎)のマンモスは最高だった。
榎木兵衛…宝石密輸団のエージェント。何故かカタコトの日本語。言わずと知れた日活の名バイプレイヤー。「木夏衛」名義もある。しかし『生贄の女たち』において榎木の馬面に一切触れないとは勿体ないの一言(例えば『必殺色仕掛け』(監督藤井克彦)を想起せよ)。
堺勝朗ピンクサロンの店長。ハリーのチンコを舐めて、”しゃぶっちゃお!しょっぺえ!”のギャグ!カントクの映画には欠かせない。買取ロマポでは『赤塚不二夫のギャグポルノ 気分を出してもう一度』のピンク映画館前にいる紳士とか。
宮崎あすか…手術前の手術室でタバコを吸う不良看護婦。『新実録おんな鑑別所 恋獄』(監督小原宏裕)での黒人との混血児役でチリチリさせた髪の毛とか印象深い。確かに宮崎あすかだが、映画のクレジットにはその名前はなく。おそらく変名で出てるのだろうがそれは不明。
中村剛一…いや、これは役名。演じている女優名が全くわからず。でもいい役だから序列では上の方に来てると思うのだけど。「長谷圭子」「春日けい」「北見麗子」のどれかか?
岡本麗…goo映画のデータベースを見ると名前があるが、実際は出演していない。