ロマポ脇役俳優は永久不滅〜『花芯の誘い』

小沼勝『花芯の誘い』(1971年12月18日公開)を観る。
例えば田中登のデビュー作『花弁のしずく』がそうであったという意味で、小沼勝はデビュー作から小沼勝だったんだ!と思わず叫びたくなるどこを切っても小沼なキンタロウアメ的秀作。
因みに脚本の「荻冬彦」は小澤啓一、撮影の「里村延夫」は安藤庄平、音楽の「月見里太一」は鏑木創の変名。『花弁のしずく』の三田村玄は「元」名義。


あらすじ…ひどい性的暴行を受けたショックにより記憶喪失&白痴になってしまった牧恵子。日本ではまだ例はないが、海外ではもう一度同じショックを与えることで記憶が蘇る例が報告されていると話す精神医。もうそれしか手はない、その方法に賭けるしかないと言い出す牧の兄貴(三田村元)とそれに同意する牧の恋人(浜口竜哉)、ってこの時点で馬鹿馬鹿しいことを真面目に言ってる可笑しさに突っ込みたくなるのだが、それはともかく、まずはタクシー運転手に犯されたかも知れないとの推理を立て、同じショックを与える、つまり運転手(高橋明)を雇って牧恵子をレイプさせるバカコンビ(自分らはそのレイプ現場を出歯亀)。しかしそれは牧の淫乱の血を目覚めさせる(記憶喪失前は処女で貞淑)結果となり、牧は「セックスの欲望だけしか持たない牝」になってしまうという前よりひどい状態に。このことにさすがのバカコンビもショックを受けるが、それでももう後には引けないと、今度はヤクザに犯されたんだと推測し、ヤクザ乱交現場に牧を投入する(またハズレ)。結局黒人に犯されたことが原因とつきとめ、ショック療法を成功させてめでたしめでたし。


若さ溢れる面白いシーンは数多あれど、小沼勝の面目躍如は、例えば鈴木則文『現代ポルノ伝 先天性淫婦』(1971年12月17日公開)でサンドラ・ジュリアンが刺青者名和宏らに犯される夢のシーンをも想起させる、牧恵子が見事な刺青(河野光揚)を背負った木夏衛ら三人に犯されるシーン、また乱交直前の儀式(『昼下りの情事 古都曼陀羅』)、乱交(真上から俯瞰ショット→上に引き→照明の変化→役者自力でストップ(『荒野のダッチワイフ』))などの一連のシークエンスの夢幻的な演出だろう。
他、ウエディングドレスを着たマネキンを見ながら微笑む白痴の牧だが、マネキンからドレスが一瞬消える幻を見て狼狽するシーンとかも何気ないがいい。
ギャグも冴えてる。童貞然とした三人組がピンク映画館の前でたむろしていると、ノーパンでふらふらした牧恵子が目の前に。やっちまえ!ということでレイプするのだが、そのうちの一人我らが清水国雄は「愛」と書かれた図鑑を見ながら(セックスのやり方を読みながら)レイプするのにはウケる。
タクシー運転手がヒゲ面のメイさん(『実録白川和子 裸の履歴書』『もっとしなやかにもっとしたたかに』『女高生レポート 夕子の白い胸』)なのも個人的にツボ。タクシー男優。このシーン、車内でレイプするのだが、車外からのショットでは牧恵子の喘ぎが無音になるのもイカス。
白痴になって言葉が不自由な牧恵子が黒人に犯されかけそうになってるときのこれ見よがしの壁の落書き「ヤメテ」。牧が壁にもたれてずるずると腰砕けになると、そこに現れる「お母さーん」の落書き。
浜口竜哉の頭の上に乗るハト。ぶはは!


「『いわゆる集合的下意識の中には、暗い前世界の獣や悪魔がいまだに生棲している領域が存在している』(C.G.ユング)のである。ちょうど分別が少年の熱い衝動を覆い、皮膚が血を覆っているように、現在が原型の深淵を覆っている。だが、幻想の領域ではこの定義は逆立する。そこでは太古の世界におけるように突如として深淵が反乱を起し、原型が大洪水のように現在を覆い、血が皮膚を覆うのである。血と皮膚の関係の逆転にほかならぬ血まみれのものの姿は幻想におけるエロス的顛倒の逆ユートピアにほかならない」(種村季弘『吸血鬼幻想』)



『花芯の誘い』1971
監督小沼勝,企画伊地智啓,助監督八巻晶彦,脚本萩冬彦(小澤啓一),撮影里村延夫(安藤庄平),音楽月見里太一(鏑木創),美術深民浩,録音福島信雄,照明越川一郎,編集鍋島惇,刺青河野光揚
出演 牧恵子,浜口竜哉,三田村元(玄),木夏衛(榎木兵衛),黒田昌司,高橋明,鈴木リエ,ピーター・ゴールデン,甲斐康二,織田俊彦,小見山玉樹,清水国雄,向野和夫,佐藤光夫,南勝美,佐藤八千代,千原和加子,大杉真紀,滝良美