蠱惑のにっかつビデオ・タイトル絵の世界

かつて映画遁世日記のヂョーさんは、60分ある映画を30分に超短縮した『女教師を剥ぐ』のビデオを観て度肝抜かれた経験があるようである。
かく言うわたくしも『フライトSEX 夜に燃え、夜に濡れ!』(*1)というビデオを観たとき、本来は60分はある映画がやはり30分しか収録されておらず、「詐欺だ!」と思わずテレビに向かって叫びそうになったことがある。


狐に抓まれたような気分になること請け合いのこの短縮版ビデオは、にっかつビデオフイルムズ株式会社から出てる「ポルノ・ベストシリーズ!」というシリーズで、僕の知る限りその特徴は三つ…


第一に、映画を切って切って切りまくって必ずジャスト30分に短縮させていること。


第二に、日活が制作した映画がまずないこと、つまり日活が買い取った他社制作のロマンポルノだということ。

※ 「日活ロマンポルノ」というのは十日から二週間ごとに新作が公開されるいわゆるプログラム・ピクチャーだった。主に三本立ての上映だったので、日活制作の新作が二本、あとの一本は他社製作の買取作品という構成で大体興行されていた。ただし後年のロマポ衰退期はこの立場が逆転し、他社制作の買取作品がロマポ・プログラムの中心を占めるようになって行ったのは、まあまた別の話。

※ いや、第二に関して正確にいえば、『愛の寓話 日活ロマン、撮影所システム 最後の光芒』に収録されている買取ロマポも含めた「ロマンポルノ全作品リスト」にももちろん載っていない、新東宝が制作・配給した例外的な映画さえ混じっていて、何故これがにっかつビデオから販売されているのか…という謎もあることはある。


そして第三に、このシリーズすべてのビデオに妖しい「タイトル絵」が付されていることである。
今のところ8本しか確認できてないので、”すべての”とはいささか言い過ぎではあるが、おそらくそうに違いないと思うので、まあいいでしょう。
そう、本日のブログのテーマは、妖しくも不思議な味わいのあるその「タイトル絵」なのであります。
では早速、「にっかつビデオ・蠱惑のタイトル絵コレクション」をどうぞ!



[1] 『美保純の女高生スキャンダル』
劇題:『ポルノドキュメント トルコ特急便』 制作:ワタナベプロダクション、配給:にっかつ、監督:中村幻児、出演:美保純、香川留美、岡美由紀、大杉漣
http://www.jmdb.ne.jp/1982/df000330.htm



[2] 『縛り・縄狂い』
劇題:『縄で犯す』(改題:『残虐!縄責め』) 制作:渡辺護組、配給:新東宝映画、監督:渡辺護、脚本:小水一男、出演:日野繭子、野上正義、国分二郎、杉佳代子、飯島洋一、堺勝朗、丘なおみ
http://www.jmdb.ne.jp/1980/dd003010.htm



[3] 『修道女地獄縄』
劇題:『地獄縄修道女』 製作:新東宝、配給:?(しかし買取ロマポでは確実にない)監督:渡辺護、出演:朝霧友香、丘なおみ、栄雅美
http://www.jmdb.ne.jp/1981/de001280.htm



[4] 『下半身・熱い余韻』
劇題:『処女残酷 うぶ毛』 製作:現代映像企画、配給:にっかつ、監督:渡辺護、出演:夏麗子、栄雅美、霧安奈
http://www.jmdb.ne.jp/1981/de000030.htm



[5] 『フライトSEX 夜に燃え・夜に濡れ!』
劇題:『下半身美人 狂いそう』 製作:現代映像企画、配給:にっかつ、監督:久我剛、出演:吉田さより(風祭ゆき)、小川恵、朝霧友香、草間二郎、高原リカ、佐藤やすし
http://www.jmdb.ne.jp/1980/dd001890.htm



[6] 『女教師を剥ぐ』
劇題:『女教師を剥ぐ』 製作:現代映像企画、配給:にっかつ、監督:高橋伴明、出演:夏麗子、竹村祐佳、忍海よしこ
http://www.jmdb.ne.jp/1981/de004450.htm



[7] 『女子大生・とろけそう』
劇題:『女子大生 痴漢のすすめ』 製作:現代映像企画、配給:にっかつ、監督:山本晋也、出演:木村佳子、竹村祐佳、竹岡由美
http://www.jmdb.ne.jp/1981/de002080.htm



[8] 『浦野あすかの女教師・偽処女』
劇題:『ある女教師 偽処女』 製作:葵映画、配給:新東宝、監督・脚本・撮影:西原儀一、出演:杉佳代子、浦野あすか、柚木春美、真木麗子、港雄一、戸川栄二、高崎隆一、村井浩
http://www.jmdb.ne.jp/1980/dd001990.htm


どうですか、在野にかくも魅惑的な絵を描く、どこの誰だか名前さえわからぬ絵師が埋もれているこの驚き、また感動!
(『女教師を剥ぐ』と『女教師 偽処女』のまっこと素晴らしいタイトル絵は、ヂョーさんから拝借いたしました。感謝!)

前述の『愛の寓話〜』のロマポ全作品リストにさっと目を通してみても、外注買取ロマポのなんと多いことか。そう考えると、「ポルノ・ベストシリーズ!」はまだまだ底が全然知れません。
このビデオシリーズのタイトル絵をコレクションしているので、もしもこのビデオやタイトル絵を見つけた際は是非ともご投稿をよろしくお願いいたします。



ちなみに好きな絵を三枚あげろと言われれば、わたくしごとではありますが下記を推します。


[7] 『女子大生・とろけそう』
[6] 『女教師を剥ぐ』
[1] 『美保純の女高生スキャンダル』


[7]は、性癖なのでしょうか、「赤い靴下」がひどく琴線に触れます。宙に浮いた花から蜜が滴ったり、左下の結晶みたいのもよくわからんし、シュルレアリスム絵画のようですね。

[6]は、顔の表情と脱げかけのパンツが良いですね。顔立ちにオリエンタルな風を感じます。

[1]は、8枚の中で一番の傑作かと思います。まず乳首の位置が素晴らしく(もはや人間のそれではない)、女の子の表情もそうであるが全体的になにか仏画でも見てるような安らぎを覚えるのと同時に、その化生が放つ魔性に総毛立つようでもあります。


でもよくよく考えるに、このマイベスト3は、すべて同じ絵師の作品で、結局この方が描く絵が自分の好みってだけの話ですね。
例えば、長谷川海太郎のように一人で三つの文体を使い分けたというようなことでない限り、上に掲げた8枚の絵は、私見では三人の絵師たちによって描かれていると思われます。


[1][4][6][7]は、陰影の付け方に大きな特徴が見てとれ、同じ絵師の絵で間違いないと思います。


[2][3][5]は、顔つきや鼻の形、乳首、また必ず下っ腹から腰にかけての肉付きを強調する線を描いているのが最大の特徴で、その腰つきや太股を見るならば、「肉感のエロス」が持ち味の絵師だと思われます。
またそこに描かれる「影男」たちは、例えば江戸川乱歩のようでもあり、また長谷部安春の『襲う!!』(*2)をも連想させ、それが特に顕著なのは『フライトSEX 夜に燃え・夜に濡れ!』でありますが、飛行機の中に現れる影男の神出鬼没は、性的に抑圧された女の妄想が具現化し実体を持ったようにも感じ取れます。


[8]は、上の二人が描いたものとは思えず、また別の誰かの絵ではないでしょうか。この絵師が描く『女教師 偽処女』のタイトル絵は、他の二人とはまた違った意味で物凄いかと思います。
まず絵の脱力感が半端なく、妙にのっぺりしていて、ビーチクも取ってつけたようにやる気がなく、とりあえず適当にピンクで色つけとけばいいや的なものを感じます。
また手の変な伸び具合と、”どっから足の付け根を出しとるんじゃい!”と思わずつっこみたくなる、デッサンが変な足の開き方、どう見てもマンコから足が出てる!
そして、この顔つき、のっぺりさ、まるで不良品のダッチワイフ。一番狂ってます…


<追記>
最後に「ポルノ・ベストシリーズ!」のイカしたオープニング(「陶酔に誘うラブタイム〜」)、おっぱい揉まれる宮下順子の動画を貼って終わりにしたかったのですが、動画の貼り方がよくわからないので割愛します(このOPが一番の見どころという話もなきにしもあらずですが…)。
OPの「お二人の愛を高め〜」というナレーションから推測するに、これは元々はラブホ用に編集されたビデオシリーズだったのではないかという気もしないではないですが、実際のところはよくわかりません。でも、大体これからチョメろうってときに60分も悠長に映画観るアベックが一体どこにいるでしょうか。もしもそういう意味でチョメシーンを中心に30分に短縮したのならば、このビデオシリーズは正しいです。



(*1) 『フライトSEX 夜に燃え、夜に濡れ!』
原題は『下半身美人 狂いそう』(1980/久我剛)、いわゆる日活買取配給の外注ロマンポルノ。
主演は吉田さより。吉田さよりとは、『下半身美人狂いそう』の約二ヶ月後に『赤い通り雨』で、にっかつ制作ロマンポルノのデビューを果たす風祭ゆきの本名、旧芸名である。
30分に短縮されたビデオを観ただけで判断すると、ストーリー自体は…
スチュワーデスである吉田さよりは、夜な夜なナイトクラブに出かけては男をひっかけ(ひっかけられ)SEXをする。「こんなハクい女とやれるなんて俺信じられねえよ」と、ひっかかった男らは腰を動かしながら決まってワンパターンなことを言う。そんな吉田を町で見かけて以来、密かに恋心を抱く青年が一人、結局吉田はこの青年ともSEXをし、青年は自分の想いが報われたと思う。しかし青年は自分が世話になっている先輩(?)草間二郎とも、吉田が関係していることを目撃しガーンとショックを受ける。そこで青年と目が合う吉田、そして心のつぶやき、「ごめんね、フライトの後は無性に男が欲しくなるの」(終)
って感じで、男って哀れだなぁ…以外の感想も特にないので、超短縮されてようが別にいいっちゃいいんですけどね…(僕は現物を見たことないが、『下半身美人 狂いそう』はそのタイトルで全長版のビデオも出ていること老婆心ながら記しておく)
また短縮版ビデオにはクレジットが全く入っていない。データベースを見ると出演者に「草間二郎」とあり、ビデオではずっとサングラスをしていて一度もはずさなかったけど、アゴのしゃくれとか、声で一発でわかる、ヘーベルハウスの草薙良一さんです。
あとビデオでは、高原リカのおっぱいがあまり強調されてなかったのが残念すぎでした。


(*2) 長谷部安春『襲う!!』についてhttp://d.hatena.ne.jp/migime/20070904