極私的マル得俳優列伝その一:佐藤重臣編


”マル得俳優”とは一体何か?
某所で芹明香について書かれた文章を引用させてもらいながら説明すると、つまり、「ちょい役でも彼女が出てる映画を観ると、ちょっと得した気分になる」、そのような俳優のことを、僕は”マル得俳優”と呼んでいる。もちろん人によってそれぞれ”マル得俳優”は違うわけだが、ここは僕の私の日記スペースなので、そう、もう独断と偏見で勝手に”マル得俳優”を紹介していこうというものである。
名づけて、”極私的マル得俳優列伝”!!
タイトルに「その1」とあるように、これは「その2」「その3」と続く。そう、ネタに困ったらこのシリーズでお茶を濁そうという魂胆でもあるが、とりあえず今日は上野の一角座で『毛の生えた拳銃』を観たことを記念して(この映画についてはまた機会があれば)、”マル得俳優”極私的ビッグ3の中の一人、ジュウシンこと佐藤重臣を取り上げたいと思います。

佐藤重臣(1932〜88)本名シゲオミ、通称ジュウシン・ジューシン、映画中のクレジットには「特別出演」と打たれることが多く、また大島渚の『新宿泥棒日記』(足立正生の『女高生ゲリラ』にも出ていると本人は言うのだが、僕はどれがジュウシンだが確認できなかった)ではスタッフロールに名前さえ出てこない人物であるが、それもそのはずと言うべきなのか、”極私的マル得俳優列伝”と銘打ったものの、佐藤ジュウシンは純粋(?)な俳優ではない。*1
ジュウシンの本業は、映画評論家であり、映画雑誌の編集長であり、小説家であり、アングラ映画や芝居の興行師である。
しかし、俳優は本業ではないというものの、ジュウシン曰く、「何故だか知らないが頼まれて出た映画が三十七本」*2というのだから、チョイ役とは言えども立派なものであろう。自ら「相当の大根」とも言っているが、まあ確かにそうなのかもだが、しかし(誰とは言わぬが)演技役者であるにもかかわらず、それが毎回パターンでツマラナイ、くせに自ら大物ぶっている主役級の俳優などより、僕はジュウシンの素人演技をよっぽど高く買うし、それに好きだ。第一ジュウシンがスクリーンに登場するだけで(”だけで”だ!)、いままで半睡で観ていた映画にも、ハッと引きずり込まれるのだ。ジュウシンのシュールな雰囲気、フリークス然とした風貌も大きな魅力だが、なによりジュウシンがひとたび笑えば、観客のこちらまで思わずつられて、大笑い、馬鹿笑い、高笑いは必至なのである。

そう、まずジュウシンの特徴のひとつは、その”笑い”である。役者ジュウシンとして自ら「金井勝の『GOOD-BYE』と大和屋竺の『裏切りの季節』が好き」と言ってる通り、『GOOD-BYE』、それに特に大和屋竺『毛の生えた拳銃』でのジュウシンの笑いは、その最たるものだと思う。
『GOOD-BYE』では、ラーメン屋のおやじの役で、むささび童子がラーメンを注文できずに吃っているのとは対照的に、ずっと一人でニヤニヤ、ニタニタ、ハハハと笑いながらラーメンを作っているあの異様さ。
『毛の生えた拳銃』では、麿赤兒大久保鷹が食堂でひそひそ話をしている側のテーブルで、飯を食ってはハハハ!ハハハ!と、これまた一人で高笑いしてる可笑しさったら(しっかし今日も麿鷹コンビの監視役だったり、パーチーで女はべらしたり、女に踏みつけられたりと八面六臂の活躍でした)、私事だが、この高笑うジュウシンと一緒に大笑いしたいがために、僕は数年前の夏の東中野へ、二度続けてこの映画を観に行ったと言っても過言じゃないと思っている*3。高校時代から「試写室で高笑いする変なやつ」で有名だったジュウシンの面目躍如であろう。

ジュウシンが自ら好きだと言った大和屋竺『裏切りの季節』についても触れておくと、こちらはもっと真面目のようで、組織の邪魔者になった主人公、立川雄三に、最後ピストルでトドメをさすという美味しい役である。こちらでは”笑い”は一切ない。*4 こういう殺傷者系の役柄では、私は未見だが、吉田喜重『血が渇いている』での右翼青年役、佐田啓二を刺して宮城前を逃げてゆくというのもあるようだ。

他、僕が特に推したいのは、金井勝『無人列島』での畸形児の役。”児”というにはジュウシンはあまりにオッサンであるが、だが女の子宮から生まれ出てくるのだから仕方ない。何故この映画を推すかというと…まず第一に、ジュウシンの丸出しケツが拝めるという男色ポルノとしての貴重性。第二に、女の子宮から生まれてきた他の四人の畸形児たちと一緒に「ほーいほい、ほーいほい」の掛け声と共に踊る、わけのわからぬ舞いが(金井勝『王国』でもやってなかったっけ?)、ココリコ遠藤の「ほほほーい、ほほほーい」の舞いに、裸体や足の上げ方も含めて類似しているのではないかという問題提起。私見では、ココリコ遠藤の舞いのルーツは、このジュウシンにあるとみた!!*5ちなみに、この謎の舞いをした後、畸形児たちは次々と壁をすり抜けてどこかに行ってしまうのだが、ジュウシンだけは壁を抜けられず激突、両足あげて大ゴケしたり、その後坂本長利に新聞貼りを手伝わされたりで、またまた美味しい役どころなのであった。

役者活動以外での佐藤重臣の偉業、魅力についても書きたいが、今日はこれで間に合った感があるのでまたいつか。

にしてもだ、画像を貼るために初めてフォトライフというものに挑戦中だが、無事アップできてるのだろうか…わからない…(by飛鳥裕子)

いちおう画像上の左上『無人列島』畸形児ジュウシンが子宮から生まれ出た瞬間。左下『GOOD-BYE』。右上『王国』左は桑名平治、右は大和屋竺。右下『裏切りの季節』。画像下の左上『あらかじめ失われた恋人たちよ』左から二番目、石橋蓮司と談笑。左下『特攻任侠自衛隊』やくざの親分。この後、笑いながらピストルを連射。右上『新宿泥棒日記』車座になってセックス談義。渡辺文雄佐藤慶の饒舌ぶりとは対照的に、何もしゃべらず、ただ笑っているだけ。右下『狂走情死考』ロケで先発隊とはぐれ、若林美宏と五能線のとある駅で二人きりになったジュウシン。「このまま、ふたりで消えてしまったらどうかしら?」と若林、「美宏とふたりでドロンしたら、どんなに素晴らしいだろうな」とジュウシン、しかし結局二人はどこにも行けなかった。若林美宏は『狂走情死考』では「美湖ひろみ」名義で出演している。雪の中を追われる村の女役で、画像のジュウシンはちょうどその女を罰しているところ。『新宿泥棒日記』で戸浦六宏と性交していたのも彼女で、そちらでは「若林美宏」名義。

【穴ばかりの不完全(俳優)佐藤重臣フィルモグラフィー
・血は渇いてる(1960/吉田喜重)・裏切りの季節(1966/大和屋竺)・避妊革命(1967/足立正生)・性犯罪(1967/若松孝二)・毛の生えた拳銃(1968/大和屋竺)・新宿泥棒日記(1969/大島渚)・女高生ゲリラ(1969/足立正生)・狂走情死考(1969/若松孝二)・復讐鬼(1969/若松孝二)・無人列島(1969/金井勝)・温泉みみず芸者(1971/鈴木則文)・GOOD-BYE(1971/金井勝)・あらかじめ失われた恋人たちよ(1971/清水邦夫田原総一朗)・(秘)女子高校生 課外サークル(1973/若松孝二)・さらばパラノイアの群れ(1973/蔵田實)・王国(1973/金井勝)・カレンダー・レクイエム 黄色い銃声(1974/伴睦人)・実録たまご運搬人 警視庁殴りこみ(1975/土方鉄人)・特攻任侠自衛隊(1977/土方鉄人)・家獣(1979/青山定司)・戦争の犬たち(1980/土方鉄人)・フリーク大将 天下御免(1987)・聖なる劇場(1998〜/金井勝)

スキマ空くのが生理に合わないので詰めた。見にくいけど。他にもこんなのにも出演してるよってのがあれば教えてください。

*1:大体にして”マル得俳優”極私的ビッグ3のうち、あとの二人も純粋な映画俳優ではないのだ。このシリーズタイトルに偽りありとの噂も。

*2:1977年までの話し。それ以降の出演本数は謎。

*3:)『毛の生えた拳銃』撮影中のエピソードを付記:乱交シーンでエロが足りないと若松孝二が登場、セックスシーンの指導をしたらしいが、そのときに「なんだジューシン、チンポをデカくしやがって」とからかわれたという。

*4:『裏切りの季節』終始ジュウシンは固い表情をしていたと思うが、立川雄三の死体を車に積み込むときに、思わずニヤっと笑ってしまったように見えたのは私だけだろうか。

*5:ジュウシンの謎の舞いの動画はどうやったら貼ることができるのか。わからない…。一番後ろのおケツ丸出しなのがジュウシン。機会があったら、ココリコ遠藤と比較してみよう。ネタかよ…、とかは言わないように。