性と愛のフーガ・田中登の世界!!!


大阪は十三の第七藝術劇場にて、特集『性と愛のフーガ 田中登の世界』が8月10日(金)まで開催中。今回一番の目玉はなんと言っても田中登監督のデビュー作『花弁のしずく』!!!長らく上映プリントがなく、ロマンポルノファンのみならず、様々な方面で幻とささやかれた作品が、今回この特集にあわせてニュープリント!!!『花弁のしずく』の上映は8月3日のPM9:00〜PM10:11と、8月6日(月)のPM5:00〜PM6:11と、あと2回を残すのみ。これを観ずして田中登を語ることなかれ。みなさん行きましょうね。詳しくは第七藝術劇場のページ(http://www.nanagei.com/movie/tanakanoboru.html)を。

H部長から広報活動しろとお達しがあったので、第七藝術劇場の「性と愛のフーガ 田中登の世界」の宣伝をしてみました(内幕をばらしていいんかい!)。
余談ですが、”広報しない奴はアルファブロガーの名折れ”云々の意味がさっぱりわからなかったので、ネットで「アルファブロガー」の意味を調べました。”あ、うちのとこじゃ全然ないじゃん(笑)”とは思いましたが、でも、ここをたまたま見て、一人でも『花弁のしずく』に足を運ぶ人が出ればとても嬉しく思うので及ばずながら日記にあげてみました。
と、偉そうなことを言ってますが、わたくし、まだ『花弁のしずく』を観たことがありません。だから田中登については何も語りません(東京上映を気長に待ちます)。と、言いつつも、少しだけ『花弁のしずく』について話させてもらうと、この映画は公開(1972年2月9日)当時、試みに当時の映画雑誌を何冊かあたってみたところ、巷間の話題にほとんど登らなかったもののようです。
まず『成人映画』はやはりピンク映画色が根強く、日活ロマンポルノ(1971〜88年)が立ち上がる前、立ち上がった直後は、それ関係の記事が誌面に踊っていたが、それ以降は『ラブ・ハンター恋の狩人』の猥褻裁判についての記事ぐらいで、『花弁のしずく』の記事は一切なし。
『映画評論』『シナリオ』にもなし。『映画芸術』にいたってはちょうどこの時期休刊。映画担当記者時代の村井実ならば何か書いてるかも、と一瞬思ったが当時の『内外タイムス』など探すことさえ出来ず。
キネマ旬報』には毎号、公開間近の日本映画を紹介するコーナーがあり、そこにはスタッフ・キャストなどのクレジットおよび略筋が書いてあるだけど、例えば、1972年1月上旬号には『団地妻 昼下がりの情事』『恋狂い』『色暦女浮世絵師』『女高生レポート夕子の白い胸』『色暦大奥秘話』のそれが掲載されている。続けて、1月下旬号はナシ。2月上旬号にもロマポ紹介はナシだが『恋狂い』と『色暦浮世絵師』の批評が掲載。2月下旬号は『女高生レポート花ひらく夕子』の紹介。3月上旬号は『性盗ねずみ小僧』『濡れた唇』『晴姿おんな絵巻』『たそがれの情事』紹介。3月下旬号は『ラブ・ハンター恋の狩人』『しなやかな獣たち』紹介。と、ぱらぱらやっていて否が応にも期待は高まるのだけど、というのは『しなやかな獣たち』の封切りは2月9日で『花弁のしずく』の併映なのである。載るなら次か!と4月上旬号を見たが、そこにあったのは『花芯の誘い』『白い天使の誘惑』『情炎お七恋唄』の紹介のみで、『花弁のしずく』は紹介(クレジット+略筋)”さえ”完全にスルーされているのだった。
それ以後の『キネマ旬報』にも目を通してみたが、「田中登」が初めて(小さい扱いだったけれど)取り上げられたのは、おそらく1972年7月上旬号での飯島哲夫による『牝猫たちの夜』(田中登監督二作目)の批評であろう。試みに一部引用すると、「ふわりと宙に舞い音もなく、不気味な様相さえ呈して落下する、透明ピンクのビニール傘を、地上からふりあおぐアングルやビルの窓ごしにとらえ、飛び降り自殺の瞬間として描いた鮮烈な数ショットに、新人田中登のあふれる才気を感じた」と言うものの、吉沢健のインポ、(初めのうちはそう見えたという)影山英俊の性の解放についてふれる流れで、「『花弁のしずく』は愚作だったが、それでも田中登は不感症の人妻における性の回復を描いていた」と言っているのはまったくもっていただけなく(まあ飯島の批評など糞どうでもいいんだけど)、これぐらいのことしか書かれなかった『花弁のしずく』は当時まったくと言っていいほど無視され続けた映画なのではなかったか。二作目『牝猫たちの夜』や、三作目『夜汽車の女』では各雑誌ともえらい持ち上げ方(『夜汽車の女』で「田中登」の名を決定づけた印象があった)なのだけど。無視をされ、誰も語らず、忘却の彼方に追いやられた感のあった『花弁のしずく』が今回大阪十三の第七藝術劇場で復活したんである、これを事件と言わずして何を事件と言おう。しかも今回(あまり期待もせずに)観たという同志の言では、これが”すっっっげえーーーー!!!”映画だったらしく、それは以前某劇場で田中登が特集が決まったとき、劇場側が”上映して都合の悪い作品はありますか”と聞いたところ、”上映されて恥ずかしいものなど一度も撮った覚えがない”と断じた田中登の言葉をすぐさま想起させるんだし、また先日のトークショーで涙したらしい主演の中川梨絵さんにいたっては(上映前のこのことに関する内幕は詳しく言えないが)今回の『花弁のしずく』上映でまたもや不感症を克服したのではなかろうか。田中登が凄いのは誰だって知っている、が、果たして35年の時を経て『花弁のしずく』再評価の気運も高まるだろうか、それがこの田中登特集の最大の見どころであり、また楽しみだ。

極端なこと言えば、僕が20年前に作ったシャシンがね、今見てもらって昨日作ったように見えるかどうかっていうのはね、ある意味では勝負なんですよ、映画ってのはね。『マル秘色情めす市場』を見ていただいた時に昨日撮ったように見えるっていうことが時代を越えて通底していけばね、それは多分本物なんですよね。−田中登