一角座トークライブメモ〜いまさらながら櫻木徹郎篇

migime2007-09-09

7月7日は一角座・大和屋竺特集の初日で、僕はこの日、原チャだと思った以上に早くて、開場の一時間半前に着いてしまったのだけど、が、守衛のアホにまだ入れられないと門前払いを喰らわされた経験を持つ。
と、そんな逆恨みはともかくとして、初めて観た『愛欲の罠』の空気銃の殺し屋は衝撃だった。この殺し屋は名を櫻木徹郎というのだが、この日以来、櫻木徹郎なる人物が気になり関連記事を読み漁っていた、というのは物凄く大袈裟で、実際櫻木徹郎の記事はあまり見つけられなかったのだけど、が、『さる業界の人々』(名著!)の中で南伸坊が言うところの二人のSのうちの一人、ホモ雑誌『さぶ』の初代編集長であり、エロ雑誌業界の大巨人である櫻木徹郎は、空気銃の殺し屋である櫻木徹郎と果たして同一人物なのか否か?という素朴な疑問。
が、それは『さる業界の人々』を読んで直ちに氷解する。例えば、シンボーが初めてSさんこと櫻木徹郎に会ったときのことをこう書いている、「ゲキダンの旗上げパーティのような会場だった。カンブはすべて、黒のタキシードできめていた。胸にはバラの花の代わりに全員がパセリを一束ずつ差していた」と。”パセリ”というのでピンと来る。大和屋竺『悪魔に委ねよ』中の「某日茫話」に詳しいが、荒戸源次郎上杉清文、夢村四郎ら、天象儀館のメンバーが、大和屋竺宅へ初めて訪問したときもこの出で立ち、盛装でそれぞれの胸にみずみずしいパセリを差していたのだ。
二つ目は、やはりシンボー本の中の”Sさんのお父さんは二科会の画家で、東郷青児と郷里が一緒で、東郷とはオレオマエの仲だった”という記述。もちろん『愛欲の罠』のシナリオは方言で書かれていないが、映画での空気銃の殺し屋は何故かめちゃくちゃ九州弁で、それがずっと気になっていたのだけど、東郷青児って生まれは鹿児島なんだよな、ああ、つながったと。

とにかく櫻木徹郎はいい。なので、前にも日記に書いたが、櫻木徹郎が登壇すると知ったときは狂喜した。そんなわけで9/1、僕はまた一角座に行ったというわけ。そのとき琴線に触れた話を、以下、箇条書きでメモると。

◎『愛欲の罠』の主人公、殺し屋の星は当初は原田芳雄の予定だった。しかし、そのときちょうど撮影で事故ったらしく、出演することができなくなった。秋山道男が僕も出ますから出ましょうよ、それにおまえならノーギャラだ、と監督などに言われ、出る気なんて全くなかった荒戸源次郎が主演することに。また荒戸は覚えていないらしいが、上杉清文曰く、大和屋演じる高川は当初はパキさんこと藤田敏八の予定だったという。嗚呼『ツィゴイネルワイゼン』。もしもこの二人が出ていたら、映画のカラーは荒戸主人公版とは全く違うものになっただろうね。
にしても、『悪魔に委ねよ』の「某日茫話」を読むと、”あなたを監督にして映画を撮ることに決めた”という内容の手紙が大和屋のもとに突然送られてきたときの話、続けて「出演者は、旧発見の会ナンバーワン、ニジンスキーを越えるかと思われる天才舞踏家、鮮度世界一と思われる暗黒劇場の面々と、名前がいくつか上げられているが、いずれも僕の知らぬ人ばかり」と言ってるのは謎か?原田芳雄藤田敏八を知らぬわけはないのだから。蛇足だが、「発見の会」の天才舞踏家とはおそらく上杉清文のことだろう。「暗黒劇場」は天象儀館の前身。

◎『愛欲の罠』で一番の見どころであり、最も素晴らしいシークエンスは櫻木徹郎扮する空気銃の殺し屋と星との対決であろう。櫻木も役者などやる気はなかったらしいが、その出っ歯は使えるとかなんとか言われて、荒戸、大和屋の命ずるままに。
空気銃の殺し屋のスタイリストは秋山道男で、櫻木の手首にはサポーター、口には都こんぶ、耳には五円玉をはさませた、らしいが、五円玉は一度も画面に映ることはなかった。アップで映して欲しかったね、なんて言ってたが、しかし何くわえてんだろと思っていたが、都こんぶだったのね。

◎いちおう当初からロマポで掛かる予定になっていた『朝日のようにさわやかに』、濡れ場を何分入れろ(回数ではなく時間指定)と日活からのお達し。しかし、当の監督が濡れ場の演出にまったく興味なし。どうしたらいいですかにも、何も言わない、言ってくれないので、俳優らは困る。

◎他、『愛欲の罠』とは関係ない話では、天象儀館のロゴは朝日新聞のロゴからとか、『愛欲の罠』の後に、南阿佐ヶ谷の事務所で、荒戸、秋山、櫻木、ノンケの三人が『さぶ』発行。仕事は99.9パーセント、櫻木がやってたらしいとか。カラーグラビアがあるホモ雑誌がなかったので、第一号から売れたという。
また、『さぶ』の他にも新聞(同人誌?)なども作っていたことがあるらしいが、それに掲載するため山口組三代目・田岡一雄に取材し「組織論」を聞きに行こうとした荒戸源次郎。当時、国立には暴力団がいなかったので、「組織論」なんか聞いて自分で作るつもりだったんじゃないの、なんて。でも暴力団も劇団も同じ団がついて、周りから忌み嫌われてたから同じでしょって、笑いながら荒戸。

「センチメンタル・ヴギウギ」を歌うビビ・クチンスカヤ&ダイナミックエンゼルスのレビュー、後ろの女の子たちが天象儀館の美女軍団、すなわち宗像笙、舟山礼、邑優子、江の島るび、ボルネオ・マヤ、紅沢ひかる、入山幸子なのかしらんと、いちおう注意深く見たが、さっぱり顔と名前が一致せず。違うのかしらん…。『朝日のようにさわやかに 食用美人篇』では、彼女らダイナミック・エンゼルスが組織を裏切った者を制裁する殺し屋集団として面白く活躍しそうだったので残念。観たかった。天国ではきっとうまくいく。

これで一角座のトークライブメモは最終回。本当は宣伝の煽りに言う”サプライズゲスト”に期待し、本当はその回も行きたいところだったが、好きな人には申し訳ないけれど、なーにがサプライズゲストじゃい!と、あまりの驚けなさに逆に驚いた週があって、それは行かなかった。前に荒戸源次郎田中陽造を出したい、なんて言ってたから、それを期待してたのに。田中陽造なら文句なくサプライズに相応しい。ちなみに田中陽造も天象儀館の社員であった。他、天象儀館の花形スター夢村四郎や、顧問の平岡正明なども見たかったが、特に平岡正明には荒戸源次郎との確執について話してもらいたかった。