『銭ゲバ』『結婚の夜』

 昨日はシネマヴェーラ渋谷に行って『銭ゲバ』と『結婚の夜』を観て来た。「妄執、異形の人々2」極私的初日。この日のお目当ては『結婚の夜』だったが、せっかくなので『銭ゲバ』も観る。
 『銭ゲバ』といえば、監督は和田嘉訓。以前、この謎の監督・和田嘉訓トークを聴きに行ったことがあるのだけど、そのときの話によると和田監督は、学生時代に映研に入っていたということもなく、演出等の勉強は東宝に入社してからの人で、それでも五年で助監督から監督になるという異例のスピード昇進を果たし傑物である。が、しかし、その後がなかなか波瀾万丈であったようだ。
 デビュー作『自動車泥棒』(1964年/監督脚本和田嘉訓/音楽は武満徹)は、安岡力也のデビュー作でもあり、路駐の外車から部品を盗み、それらを集め一台の自動車を組み立て、日本脱出を夢見る混血不良孤児たちの話だったが、これを初めて観たときは、『忘れられた人々』を想起し、突如と人間が鶏に豚に動物に変容するシュルレアリスムや、破壊衝動、斬新な映像とストーリーの寓話性を観るにつけ、”和田嘉訓は日本のルイス・ブニュエルだ!”と心の中で勝手に叫んだが、しかし、その当時、他の日本映画には絶無であっただろうこの感性は理解されず、二週間公開の予定が、あまりの客入りの悪さに十日で終了させられ、この不入りのせいで、この後、和田監督は三年ほど監督業を干されることになる。
 これに懲りたのかどうかは知らないが、和田嘉訓はクレージー映画のミュージカルシーンの演出を担当し、監督として復活して以後は、1967〜69年のあいだ、ドリフターズコント55号ザ・タイガースと組み、東宝という会社の意向に沿うような「明るく」「楽しい」コメディ映画ばかり撮っていたが(この間、ザ・タイガースを隠れ蓑とした『世界はボクらを待っている』という旧ソ連のチープなSF映画を彷彿とさせるトンデモ映画を撮っている)、近代放映制作の最後の監督作品において、和田嘉訓はまた、上映時間90分のうちに12人と犬1匹を金のために殺しまくる男の映画を作るという狂いっぷりを見せる。それがジョージ秋山原作の『銭ゲバ』(1970)なのである。
 しかし、この映画が公開されたときは、まだ漫画は連載中だった。それ故に「てめえたちゃみんな銭ゲバと同じだ。もっと腐ってるかもしれねえな。それを証拠にいけしゃあしゃあと生きてられるじゃねえか」という蒲郡風太郎の最後の決め台詞は当然ない。それなのに、映画の続編が作られなかったというのは、やはりこんなもんは東宝としては今後配給できんよ…ってことだったのだろうか。
 和田監督によれば、”東宝女優は会社のカラーがあって無茶できないから、他の会社から女優を引っ張ってきた”とのことで、その「他の会社の女優」、おっぱい要員として引っ張ってきたのが東映緑魔子だった。
 快楽亭ブラック師匠がコラムに、『銭ゲバ』と『不知火検校』について触れて”悪逆非道ぶりを描いているうちに、なんとなくユーモラスに見えてくるのが面白い”と書いているが、なるほど、極端に突き抜けた悪逆は元々ユーモラスなものなのだ。しかし、『銭ゲバ』と『不知火検校』ならば、圧倒的大差で勝新に軍配ではないか。好きな女を殺すこと一つをとってみても、勝新には唐十郎のロマンチシズムはなかった。
 まあそれはともかく、『銭ゲバ』は横山リエのスネ毛が物凄ーく気になった。『犬神の悪霊』でもあるまいし(笑)。言っとくが、横山リエは超プイタですので。
 先ほど『銭ゲバ』を和田監督の最後の映画と言ったが、実際は近代放映制作で『脱出』を完成させている。しかし、「混血児」「日本脱出」と和田監督のデビュー作を思い出させそうな、この東宝ニューアクションっぽい映画は何故かお蔵入りになったのである。ヴェーラは「東宝ニューアクション」特集、「オクラ映画」特集として、この『脱出』、また西村潔の『夕映えに明日は消えた』*1こそ掛けるべきなんじゃないのか(まあ、ようするにどちらも自分が観たいというだけの話)。まあ、それはともかくとして、八年間で八本の映画しか撮れなかった和田嘉訓は、『脱出』のオクラを機に”演出業に未練はない”と東宝を辞めて、37歳でソニーに行ったのでありました。
 余談だが、和田監督はトークでいきなり『銭ゲバ』の主題歌を歌い始め、歌い終わったあと、”今日はこれを歌いに来ました”と言い放つような、ユニークな人だった。

 と、なんだか和田嘉訓日記になってしまったが、肝心目当ての『結婚の夜』はどうだったかというと、これがめちゃくちゃ面白かった!!!!!
 伏線の張り方とかたまりませんの。特にあの一発には、あー驚いた、あー怖い。にしても、やっぱり三五郎はモテ男をやらせると抜群に面白い。笑った(笑)。
 主演の安西郷子は日本のバーバラ・スティールだ!ってことでどうかな(超テキトー)。妄執に取り憑かれるこの手の美人にはぞっとする凄味がある。とにかく『結婚の夜』の安西郷子は素晴らしい!!!!!!

*1:『夕映えに明日は消えた』(1973)会社に”陰惨”という理由から難癖をつけられお蔵入りとなった西村潔のオクラ映画。東宝五十年史とか六十年史とかでも無視され記載されてないようで、上映されたことがあるのかさえハッキリわからない映画のようだが、ただ税金関係の問題で作ったものは必ず一度は上映するということなので、おそらく二番館の八王子東宝で一度かかったことがあるのではないかというおはなし。ちなみに映画は公開されなかったが(?)、主演の中村敦夫が歌う主題歌「指笛のバラード」のレコードだけは出ている。シナリオだけは、『シナリオ』1972年11月号に掲載されているので読もうと思えば読める。書いたのはジェームス三木となっているが、”時代劇は勝手が違う”と言って書けなかったらしく、実際は中村敦夫がほとんど書いたという。