タコやろがぁぁぁ!〜『喜劇 特出しヒモ天国』

ラピュタ阿佐ヶ谷にて森崎東の『喜劇 特出しヒモ天国』を観る。
男と女の未来永劫続くであろう喜悲劇、これは笑えます、泣けます、つまり大傑作。この映画好きすぎて、実は今回劇場で観るのは三回目。初めて観たのはイメージフォーラムで、そのとき好きだった女性とデートで行ったことを覚えているので(そのあと新宿に移動して花園神社の酉の市で見世物小屋観たっけなぁ)、それから考えるにかれこれもう四年前のことのようです。と、残念ながら彼女のヒモになれなかった(おい!)そんなmigimeのセンチメンタリズムはともかく、このとき劇場には森崎監督と山根貞男がいて、上映前に急遽山根貞男の作品解説がおこなわれたのでした(森崎監督は客席におり壇上にあがることを遠慮していた)。それによると松竹の森崎監督が東映撮影所入りしたとき、歓迎をもって受け入れられ皆が映画に出たがったとのこと。それが屋台をひっくり返すほどの喧嘩シーンで、ノークレジットながら工藤栄一(屋台のオヤジ)、川谷拓三とマジ喧嘩をする、また煽る酔客として、深作欣二渡瀬恒彦名和宏室田日出男志賀勝野口貴史(※この中で野口だけはクレジットされてる)など東映ピラニア軍団カメオ出演にも繋がり、これは一種の祭だったのだとも思います。


魅力的な俳優たちについて、いちいちその素晴らしさを説いていきたい衝動に駆られるが、そんなものを書いていたら切りがないので(つーか、めんどくさいので)、それに関しては映画のストーリーや数々のエピソードと共にネットで検索したらよろしかろうと思う。
ただ、一つだけこれだけは言わなきゃ気が済まないということは、この映画、芹明香が最高です。これはファンの贔屓目じゃなくて、ほんとにほんとにいい。俳優序列では池玲子が主役であるけれど、完全に主役を喰っています、その点池玲子(相変わらず湿っぽい感じで…)にとってはちょっと可哀相な作品でもあります。


芹はアル中で、乞食みたいな恰好だったが、藤原釜足の口添えによって、すぐにパンツを脱いで警察に捕まるアル中ストリッパーになって行きます。そしてストリップの際、大笑顔で股間からクラッカーをパンパン!させたり、”お酒を飲むとチューリップ(※おまんこ)の開きがいいんや”とか、”あるもん(※おまんこ)見せて何が悪いんや”という明香節を全開させていき、その他にも全編そんな調子なのだけど、特に僕が琴線に触れたのが三カ所あるのです。


一に、自分が出演しているストリップ小屋が火事になって炎上しているときに、その炎を”キレイや”と言って(素っ裸で)目を輝かせる、まるで無邪気な子供のような芹の美しさ。


二に、その火事により、仲間であった藤原釜足と中島葵とその子供が死んでしまう(*1)、その葬式の際、部屋の片隅に体育座りして蹲っていた芹が突然”♪男と女のあいだには 深くて暗い河がある…”と「黒の舟唄」(*2)を歌い出し、”葬式の席やぞ!”と誰かに言われても、”善さん(藤原)の好きだった歌や”とさらに踊りながら歌う、芹の”ローエンドロー”の歌声、物悲しい鎮魂歌。


三に、警察の手入れを喰らって逮捕、護送車の中で他のストリッパーたちが”♪ローエンドロー ローエンドロー”と「黒の舟唄」を歌ってる中、カメラは護送車を後ろから一番後ろの座席に座る芹の背中をとらえている、が、歌詞の最後”振り返るな ロー”のところで、こちらに振り返る芹、そのときのアップになった、ずっとこちらの一点を凝視している芹の乾いた表情、虚無感や諦念みたいなものと、逆にしたたかさが綯い交ぜになった、なんてそんな薄っぺらい言葉ではとても説明できやしない、とにかく観てくださいとしか言いようのない、生きることの全てがそれに凝縮されているような、とにかく芹の表情や雰囲気や立ち居振る舞い全部。


警察の人間だったが、芹のストリップで壇上にあげられ、ストリッパーたちと一緒に手入れを喰らい、その後、警察をクビになり、工藤栄一の屋台でピラニアどもと喧嘩、なんだかんだで芹のヒモになり、捨てられて廃人、またまた手入れの際のどさくさに、端折るが、人を刺し、警官がストリッパーたちを連行する横で、”オラァ、人殺しぞよ!なんで捕まえないんや!”と泣きっ面で(ほぼ懇願するかのように)叫ぶが、皆に無視される拓ボンの言語を絶する憐れさ、踊り子さん自体、地方を転々と巡業するので、これをロードムービーと言えば言えなくもない気がするが、それよりもこれは拓ボンの人生転落の哀しみに濡れたロードムービー?!


若い頃は”ピンクの山本富士子”と呼ばれた松井康子とか絵沢萠子の熟女系のストリップがヤバい(爆笑!)の始め、おじいちゃんヒモの藤原釜足とか、小屋の支配人の北村英三とか、”未来永劫助かりゃせんのじゃぁ〜”とババアどもにアジるタイジ殿山とか、なんでこうもジジイやオバンって魅力的かつ面白いのか。そんなこんな映画は最高です。


他にも、カルーセル麻紀川地民夫のこととか、下条アトムと森崎由紀のこととか(タイジのアジと対比関係をなす赤ん坊出産)、芹明香に半分入れちゃった岡八郎やら、片桐竜次ネグリジェ姿なんかにも突っ込みたいけど、まあめんどくさいのでやらない。


というわけで、8/12までラピュタ阿佐ヶ谷で上映中。まだ間に合う!走れ!笑え!そして泣け!



(*1)
『週刊大衆』(年度失念)でおこなわれた山城新伍と林征二(原作者)の対談によれば、藤原釜足のエピソードは、仲間からもバカにされてるような男が、火事になったときいったん外に出たが、中に女房と子供がいるというので、皆がとめるのも聞かずとってかえした実話に基づいている。結局三人は死んでしまったという。


(*2)
次回に続く。