神様、仏様、たこつぼ様〜『温泉みみず芸者』備忘録〜鈴木則文×三原葉子=獣姦

今日はシネマヴェーラ渋谷「最終凶器・鈴木則文の再降臨」の楽日のようだ。結局、鈴木則文トークは一回も行かず、映画も『すいばれ一家 男になりたい』と『温泉みみず芸者』の日しか行かなかった不実なファンです。



『温泉みみず芸者』は数年前にシネマヴェーラ「笑えるポルノ」特集のときに観たが、例えば、”キミは池派か、杉本派か?”と問われれば、僕は断トツ後者であり『温泉スッポン芸者』派、そのせいなのか、そのときは正直『温泉みみず芸者』にあまりピンと来なかったのでもう一度観てみようと思った次第なのである。


改めて『温泉みみず芸者』(1971)を見直して思ったのは、これは『温泉スッポン芸者』(1972)に勝るとも劣らないぐらいに面白いぞということだった。やってることはどこからどこまで両者まったくおんなじ。単なるヴァリエーションの違い。


ただラストの無限精流・竿師段平とのセックスバトルは圧倒的にみみず芸者の方が面白くて感動した。スッポン芸者のバトルが冗漫でやや退屈であるのに対し、みみず芸者の方は最中に何故か突然部屋を飛び出し、浜辺や海中でのバトルに移行するところも凄いが、多湖家の子孫である池玲子が劣勢に立たされるや、海中から夥しい数のタコが這いだしてきて竿師段平である名和宏にまとわりつき、池玲子に加勢するのである。そう、このタコたちは多湖家の先祖の霊なのだ!竿師段平の後ろについている戦没将兵の英霊以上に、多湖家の先祖の霊の方が強いという!これらのイメージはもう素晴らしいの一言。そして、竿師段平は海中で精液を爆発させ(前に観たときはもっとバカバカしいほどの大爆発だった記憶があったのだが、思ってた以上でなかった)、海面に拡がった精液の中央にぷかりと浮いて朽ち果てるのだった。


最後の池玲子杉本美樹、松井康子の脳天気なやりとりも最高でした。家族愛。



多湖家の先祖の霊(タコ)たちには確かに感動を覚えたが、しかし、元来タコとは女を襲うのが相場ではなかったか?


例えば、蛸との獣姦図で一番有名なものは、葛飾北斎『喜能会之故真通(きのえのこまつ)』(1814)の一枚であろう(画像)。それは全裸で横たわっている海女にタコが巻き付いている絵で、小蛸は女の乳首を弄くりながら上の唇に、大蛸は足を女の全身に這わせ、クリトリスを弄りながら下の唇に接吻しているのだ。女は女で、その手で大蛸の足をがっしり掴み、”もっと吸ってぇ〜ん!”と言わんばかりに大蛸を自分の方に引き寄せている。

それ以前では、1781年に北尾重政が描いた『謡曲色番組』というのもあり、その中の一枚「海士(あま)」でも、海底で全裸の海女にからみついている大蛸が描かれている。ちなみに、その絵に書かれた海女と蛸の台詞には、海女「わたしがたこだと自慢でいたが、男のたこにあったのは初物」、蛸「なんと、このあしのしめ加減はきついものであろう。おれも人間は初物さ」ともある(まさかこの海女は多湖家の御先祖様ぁ?!)。

また、映画の話に戻るならば、『温泉みみず芸者』では本来のエロババア的役回りでないのが残念だった、三原葉子を思い出してみてもいい。
それは鈴木則文監督の『お祭り野郎 魚河岸の兄弟分』(1976)の一場面で、そこには蛸と戯れよがる三原葉子が出てくるのだ。三原は蛸を見ただけで興奮しちゃう淫乱女で、両おっぱいや股間を蛸に吸わせたり、這わせたりするのである(画像)。蛸の吸盤の吸い付きは半端じゃないが、女がよがる前例はある、それに三原クラスになると蛸レベルの吸い付きでなくては物足りないのかも知れぬ。なお、三原が蛸と戯れてる中、スクリーンに挿入されるカット(画像)は、前述の、葛飾北斎の獣姦浮世絵のパロディであることは言うまでもない。


そういう意味で、もしも多湖家の先祖の霊であるタコたちが、池玲子をも襲ったならば、どんなに面白かったのにと独り妄想する。現実に、幽霊に強姦されたという女の話は枚挙に遑ないが、それならば『温泉みみず芸者』での池とタコとの交合は、幽霊強姦+獣姦+近親相姦のイメージを総て含んだ”三姦”となったであろう。






浮世絵には他にも獣姦を扱ったものがある。例えば、喜多川歌麿『歌枕』の中の「海女」では、水底で海女が二匹の河童に陵辱されていたり、葛飾北斎には巨大な狒々に犯される娘の絵などもある。
もしも、「河童・狒々=妖怪=怪物・フリークス」という図式が成り立つならば、鈴木則文『エロ将軍と二十一人の愛妾』(1972)にも、またもや三原葉子とのコンビで獣姦描写が出てくること指摘しておく。


『エロ将軍と二十一人の愛妾』では、謎の中国人である由利徹岡八郎が、徳川将軍に献上するため、パンダではなく”パンタ”なる檻に入れられた愛玩小人、フリークスを連れてくるのだ。映画中、この小人に対する説明は一切なされていないが、中国は纏足、宦官、玩弄物としての侏儒の国であり、中国貴族のあくまでも「人工的」な奇形趣味(*1)を考えあわせれば、この愛玩小人パンタが”箱櫃児”であることは容易に察しがつく。
箱櫃児(シェンクワイル)とは、赤ん坊のうちから箱に入れて育てられた、人工的な小人のことである。このような小人は貴族を楽しませるためだけに作られた玩弄物で、もっと言えば、沼正三ヤプー同様のただの生ける性玩具でもあった。
三原葉子にパンタ、もう言わずもがなであろう。
バター犬である狆にアソコを舐めさせていた三原だが、より強い刺激を求め、 生ける性玩具パンタを”使用”するようになるのは至極当然の成り行きだったろう。そう、三原は二匹のパンタに全身を愛撫させ、自分は激しく悶えるのである。そして、三原のパンタ使役術はこれだけに止まらず、パンタを渡辺やよいに差し向け、パンタに彼女を犯させたりもするのであった。


蛇足だが、『エロ将軍と二十一人の愛妾』には、中国の宦官制度を倣い、徳川将軍が植木鋏で大泉滉のチンコをちょん切るシーンがある(ちなみに実際の大泉滉はデカマラとの噂。その大泉滉がチンコを切られるとは、鈴木則文流の洒落か)。宦官といい、単なる性玩具としてのパンタの素晴らしいイメージといい、鈴木則文が中国の人工的な奇形趣味に造詣が深いことは、もう間違いがないのである。



(*1) 人工的奇形趣味
中国人は、箱櫃児や纏足は言うを俟たず、獣と人間を外科手術でくっつけて半人半獣の怪物まで造ったりもした。この中国人の人工的な奇形に対する執着には、かの奇形人間・土方巽も舌を巻くほどのものがあるように思われる。
試みに、この人工的奇形趣味の系譜に加えてもいいような映画を列記すると、当然『孤島の鬼』が原作の一つでもある石井輝男の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969)、土方巽が奇形アイランドを造ろうと夢想するのが素晴らしい。大体世の中に乱歩原作の映画は数多あれど、その中でも『孤島の鬼』をベースに選んだ石井輝男の感覚凄しや。あとは鈴木則文の『エロ将軍と二十一人の愛妾』(1972)、これには”性的愛玩小人パンタ”に大泉滉の宦官が。白井伸明×大和屋竺×原作:李笠翁(伝)の『発禁 肉蒲団』(1975)では、”小指じゃイヤ”と女に言われて悩んだ谷本”メダカキノコ”一が、メダカを切り落とし代わりに犬のペニスを移植するという、本場中国人も吃驚の(というか原作は中国ものか)人間と動物を外科手術でくっつけようという試み、さらに一種の獣姦のイメージさえ含む素晴らしさ(そして移植した犬ペニスから発射される精液の凄まじさや!)。番外編としては、英国からジャック・カーディフの『悪魔の植物人間』(1973)も入れとこう。人間と植物を合成することで新人類・植物人間を造りだそうとするマッドサイエンティストや、体に大きなハエトリソウを生やしたあくまで人工的な植物人間(この点で本多猪四郎マタンゴ』(1963)のキノコ人間とは根本的に違う)。ちなみに『悪魔の植物人間』は、トッド・ブラウニング『フリークス』(1932)などに並ぶ先天的フリークス映画でもあって、SIDESHOWの面々、本物の、小人、瘤男、熊女、猿女、火喰い男、ワニ女、生ける骸骨、蛙少年、デブ女、人間針刺し、目玉男、プレッツェル男(足首の骨がねじれている人間。MARUO SUEHIRO『MR.ARASHI'S AMAZING FREAK SHOW』には”THE HUMAN PRETZEL”というのが出てくるが、こちらはいわゆる”逆さ首”と呼ばれる、首がねじれた奇形)などが出てきて、ときに芸なども観られて楽しいのだ。人間と植物を合体させて新人類を造るのでは、長嶺高文『ヘリウッド』(1982)というトンデモ変態ロックミュージカルムービーもありましたっけ。アーティスト気分で人体をバラバラに解剖し繋ぎ合わせ、人工的フリークスを量産するマッドサイエンティストが、”血を流して作ることに芸術性がある”、”人間はもう一つ二つ手足を持つべきだ”と素晴らしすぎる主張をするのである。他にも植物と人間を合体させることで新人類を生み出そうとする遠藤賢司なども。



(追記)
ミダス・デッケルス『愛しのペット 獣姦の博物誌』、タイトルだけで面白そうなので図書館で借りたが、ちなみに僕がいままで一番衝撃を受けた獣姦者は、インド象を犯そうとして逆に踏み潰されて、真っ裸で死んだ男である。この事件が起こった年度は失念したが、場所は井の頭公園の動物園。この男にはこの事件前にも豚小屋や鶏小屋への無断侵入および人の家畜を獣姦するなどの前科があった。巨なるもの象を犯そうとする精神、象に踏み潰された死、獣姦者の鑑であるとともに、”獣姦界のボードレール”と僕は呼びたい。「巨大なる膝の斜面によじのぼり、また夏日、時あって、毒の陽ざしに疲れ果て」


日本屈指の獣姦女優・三原葉子について触れたが、それならば谷ナオミもあげておかねば片手落ちだろう。谷は犬とも性交しているが、それよりも出色なのが、神代辰巳『悶絶!!どんでん返し』でのハエとの交わりだろう。谷の乳首にハエを這わせて快感を得る表情!古今東西ハエに愛撫させた例があっただろうか?!
『獣姦の博物誌』をすでに超えていること期待する。



(追記)
それにしても『温泉みみず芸者』、池玲子のデビュー作ですかそうですか、正直顔が…。妹役のミキ杉本もこれがデビューっぽいですけど、出番は池に劣るものの、こちらの方が後に化けそうな雰囲気を醸し出してたような。
極私的な見どころ佐藤重臣。青カンしてる最中、カニにはさまれて痛い痛い言う。そのカニ菅原文太がつまみあげ、おめえの方がよっぽど痛えよな、とか、なんかよくわからん演出に、ぷぷぷ。
知能指数ゼロ地帯といえば、滝田洋二郎『痴漢電車盗み撮り 上から下から』がこれまたIQゼロ、タコ壷VSヤリ貝、ごく一部のゼロ地帯の住民にはどっかんどっかん来るネタ。海産物って凄いなぁ。